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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
地下遺跡の激闘
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第37話『遺跡の脅威』

ある日の昼時。

小気味のいい音を響かせて、扉がノックされる。

場所は学園内の学園長室。

1人仕事をこなしていた柚葉は、その音に気がついて顔を上げる。

「いいわよ入って」

「__失礼します」

柚葉が許可を出すと、部屋の扉が開かれる。挨拶と共に部屋に入ってきたのは、美緒と猛と佳奈恵__美緒の小隊だった。

「あら、どうしたのあなたたち」

「学園長に聞きたいことがある」

「ええ。いいわよ」

無表情がデフォな為に、例え柚葉でも美緒の感情を読み取るのは難しい。一体何を思って、何のためにわざわざ学園長に質問しにきたのだろうか。

その疑問は、すぐに晴れる事になる。

「莉緒のところの小隊がここ数日見当たらない。みんなはどこにいるの?」

「ああ、そんな事だったの」

どうやら、最近見かけない3人を心配しているらしい。だが、見当たらないのは当然だ。

「やっぱり、莉緒たちがどこにいるか知ってるの?」

「ええ。だって私が任務を出したんだもの。長期にわたる任務だったから、まだ帰ってないのね」

「そう……。その任務が何か、聞いてもいい?」

少し訝しむように、半眼で学園長を睨む美緒。特に莉緒だろうが、よほど心配らしい。たかが数日、しかももう高校生だと言うのに、美緒は莉緒に対する依存性が少し強い。ちなみに、その逆はなかったりする。

どの道、よく見ていなければわからない事だが。

「知りたい?」

「うん」

柚葉の問いかけに、悩む事なく頷く美緒。そして彼女ほどではないようだが、猛と佳奈恵も少し気になっているらしい。

「いいわ、教えたげる。ちょっと特殊な事情があってね。遺跡探索をお願いしているの」

「__っ⁉︎」

「えっ……⁉︎」

「なっ、遺跡探索⁉︎ そんな馬鹿な!」

美緒が珍しく、非常にわかりやすい反応を示した。だがそれに続く2人の反応__特に、猛が声を荒げた為か、その表情はすぐにいつもの無表情に戻ってしまった。

その後も、猛は徐々にヒートアップしていく。

「学園長、何であいつらが遺跡探索なんか行ってるんですか⁉︎ そもそも、遺跡探索は学生には許可されていないはずですが⁉︎」

「そ、そうですよ。遠くにあるものもあるし、下に行けば行くほど危険度は増すって授業でもやりました。莉緒ちゃんの小隊は本当に大丈夫なんですか?」

猛と佳奈恵の意見はもっともだ。今までは、安全性を考慮して、学生には遺跡探索をさせないことになっている。

だが、あくまでそれは『今までは』なのだ。

「団長に頼まれたのよ。あの人には結構色々と借りがあるから、断るにも断れないの」

「だからって、何であいつらを行かせたんですか? 他の小隊とか、俺らでもよかったんじゃないですか⁉︎」

「そこも含めて、団長の頼みだったのよ」

随分と噛み付いてくる猛の態度に、少しばかり面倒くささを感じ始めた柚葉は、半眼でため息をつく。

柚葉の言葉の、真意を問いかけるように、猛の目が柚葉を睨む。

「学生にも遺跡探索ができるようにという、今回はその試験的なものよ。あの子達が成果を出せれば、特定の条件で学生でも遺跡探索に行くことができるようになる。そして、実績以外にも、団長は『魔王』の力を有する将真の力がどれくらいのものなのかを結構気にしてるみたいだったから。莉緒の小隊が今回派遣された理由としては、今行ったのが全てよ」

「ぐっ……」

またあいつかよ、と悔しそうに歯噛みする猛。ここ最近の猛には、将真に対するライバル意識がかなり強烈だ。敵愾心と言ってもいいほどに。

その事に少し不安を抱きながらも、柚葉はそれを伝えはしなかった。伝えるだけ無駄だと判断したからだ。こういうのは、当事者で解決するのが良いのだ。この場合でいえば、猛と将真か。まあ、将真にとっては迷惑な話かもしれないが。

「今まではすこし過保護だったのかもね。だから、今回の件で上から許可が降りれば、あなたたちも遺跡探索の任務を受けられるようになるわ。多分ね」

「……でも、いいの? 学園長」

「何が?」

これ以上質問が来ることもなさそうだとうち切ろうとしたところで、普段の冷静さを取り戻した美緒が、無表情で問いかけて来る。

その問いかけに対して、柚葉は惚けるような回答をした。彼女が言いたいことは、何となくわかっていたのだが。

「だって、遺跡探索の難易度。タダでさえそこそこなのに、5階より更に下に潜ったら、それは自警団員でもかなり苦労するっていう__」

「……」

柚葉は少し険しい表情を作って、続く言葉を待った。ある程度、予想はついている。

そして、若干言うのをためらったかのような妙な間の後に、美緒は言った。


「__Sランクの超高難易度任務じゃないですか」




将真たちは振り向いて、背後にある存在を目にした。

はじめに移ったのは、巨大な影だった。そしてそれは、上へと続いて、視線を天井まで徐々に上げて行くと、2つのの赤い輝きが見て取れた。

そして、巨大な影も視線を感じたせいなのか、視線を下へと下げた__ような気がした。

その瞬間、3人を襲ったのは、背筋が凍るような悪寒だった。視線が交錯する少しの間、全身から冷や汗が止まらない。

「な、んだよ、これ……?」

「し、将真くん。ごめん、そろそろ立ってられない……」

将真と莉緒の声は、か細く震えていた。

それほどまでに強烈な殺気。ただ視線を合わせただけでこのザマなのだから、これで戦闘にでもなろうものなら、命はない。

今までに感じたことがない恐怖に、思わず僅かに後ずさる将真。その動きを目にした巨大な影が反応し、僅かに動き始める。そして、今まで呆然と上を見上げていた莉緒が、双方の動きに気がついて、将真とリンの首根っこを掴む。

その場を瞬時に離脱した次の瞬間、巨大な影が振り下ろした拳が、地面を粉々に砕いた。

「__逃げるっすよ!」

莉緒の手によって何とか無事で済んだ将真とリン。だが、莉緒の合図で、再び焦るように走り出す。

巨大な影から離れることでようやく恐怖の呪縛から逃れつつある将真が、莉緒に喚きながら問いかける。

「何なんだよあれ⁉︎ 超ヤバイじゃん!」

「何なんだって言われても……。聞いたことはあるんすけど、いわゆるフロアボスっすね」

「ボスだとぅ⁉︎ そんなのあるなんて聞いてないんだけど⁉︎」

「自分だって、出るだなんて思ってなかったんすよ!」

背後の巨大な影の出現は、莉緒にとっても非常事態のようで、珍しく取り乱していた。

「5階より下の階層から急激に難易度が跳ね上がるんすけど、それは下層の何処かにフロアボスが必ずいるからで、しかもこの階にろくなものがなかったことを考えるとまだ先がある……ってことは」

「この先もあんなのが出て来るって事か⁉︎」

「多分そういう事っすね。まだ調べられてないところだったから仕方がないとはいえ、本来ならこの遺跡、かなり高難易度にされているような場所っすよ!」

「こう言っちゃ何だけど、つまりボクたちはつくづく運がないってことなの⁉︎」

すでに将真の手から離れて、自分が逃げることで精一杯になっているリンが、嘆くように叫ぶ。

その叫びの直後、背後で破壊音が響く。僅かに首を後ろに向けると、あの巨体が出入りするには小さい門が、無理やり通ろうとした巨体によって壊され、更に巨大な空洞と成り果てていた。

「や、ヤバイっすよ……」

「お、追いつかれたら殺られる……!」

顔を蒼白にして呟く2人。その2人を置き去りにするように、将真が一瞬、超加速した。

「え、将真くん⁉︎」

「お前らも速く来い! ちょっと確かめたいことがある!」

「くっ……!」

一瞬、見捨てられたと思ったリンと莉緒だが、どうやらそれはないようだ。

少し先に行った将真に追いつくと、将真はぐるりと回って、巨大な影と向き合うように立つ。構えた両手の中に、黒い炎の球が出来上がっていた。

「喰らえっ!」

将真はそれを、まだ少し離れている巨体の顔面へと投げ飛ばした。その球体は見事に巨体の顔面を直撃。一瞬だけ、その素顔を照らし出した。

人型の巨大な影。その顔は、牛そのものだった。

「っ、今のは……」

「間違いない、ミノタウルスっす!」

「ミノタウルスって確か、地下迷宮の怪物じゃないのか⁉︎ 何でこんなところに⁉︎」

「いや、そもそも魔王軍にもいたと思うんだけど⁉︎」

将真の絶叫もそうだが、『裏世界』では、リンの絶叫の方が正しいのだろう。確かに授業で『巨人種ギガント』の事を習った時に教えてもらった覚えがある。


曰く、ギガントとは違い、知性や理性はあるらしい。図体も精々10メートル前後がいいところだ。たが、その凶暴性はギガントを上回るという。

実際に映像で、ミノタウルスがギガントを殺している様子を見せられた。あれは確かに、暴力の塊だ。


「確かに、自分たちは魔王軍で見ることの方が多いっすけど、あれはミノタウルスの血族みたいなもんっす。モノホンじゃないんすよ。で、背後にいるあいつは、純血……というかおそらく本物っす」

「どうしてそう思う?」

「ここの空気のせいっすかね。遺跡の性質と、空気中に充満する魔属性魔力。それが地下迷宮に似てる……とまあ、あくまで予想なんですけど」

「ね、ねえ、それよりなんか怒ってない⁉︎」

将真と莉緒の会話に、リンが顔を青ざめさせて喚く。その背後で、ミノタウルスが雄叫びをあげた。直後、ミノタウルスが軽く跳躍し、将真たちの更に近くへ着地する。

その衝撃波だけで、地面が抉れ、将真たちもまた宙に煽られる。

「なあ、なんかおかしくないか⁉︎」

「何がっすか⁉︎」

バランスを崩しながらも、無事に着地する3人。再び走りながらも、将真が先程から思っていた疑問を口にした。

「もういい加減、階段に着いていてもいいんじゃないか⁉︎ なのに、一向に近づいてる気がしないんだけど⁉︎」

「……そうだ、そうだよ!」

「な、何だよ急に⁉︎」

「ミノタウルスがあるからじゃない⁉︎」

声を上げたリン。その発言の意味はよくわからなかったが、隣で莉緒が同意を示した。

「そうっすよ、ミノタウルスのせいっすよ! 詳しい事はわからないっすけど……。とにかく、こいつのせいで、この空間自体が迷宮化してるんす!」

「じゃあ何だ、空間が歪んでるとでもいうのか⁉︎ いや、歪めてるのか? ミノタウルスが⁉︎」

「だから、詳しい事はわかんないんすよ! でもその認識でいいと思うっす!」

「じゃあ逃げ切れないじゃん!」

将真が悲痛な声を上げる。

ミノタウルスはもうすぐそばまで迫っている。本当に死ぬかもしないと、将真は顔をひきつらせる。

『魔王』の力を限界まで絞り出せば、おそらく倒せない相手ではない。だが、そうなった時の身体にかかる負荷を考えると、それはあまりしたくない。よしんば助かったところで、この空間自体が耐え切れなくなって崩れるだろう。

いくら魔導師でも、こんな地下深くで瓦礫の下敷きでは多分死ぬ。

階段は遠く、そこに至るまでの道は障害物がほとんどない広々とした通路。

状況は限りなく絶望的だった。

そんな時、更に状況が悪化する。恐怖のあまり、リンが足を縺れさせて転んだ。

「きゃっ……」

「リン⁉︎」

将真は、逃げる足にブレーキをかけて、すぐさまリンを起こそうとそばによる。だが、リンを起こしたと同時に顔を上げると、ミノタウルスに追いつかれていた。

もうダメだ、と思った時、不意に後ろから抱き締められる。

「……莉緒⁉︎」

「すんません、この後のことは任せるっすよ」

そういった次の瞬間、莉緒の体から妙な魔力が溢れ出して、3人を包み込んだ。

そして、ミノタウルスの拳が直撃する寸前、魔力が掻き消えた。

3人は、遺跡から消えた。


そして__


「……ん?」

リンを抱き締めたまま、将真は不思議な感覚に襲われて目を見開く。死んだのかと思ったが、リンを抱き締めている感触がある以上、死んでいるとは思えない。

そして、周りに広がる青色に、思わず目が点になった。更に、白い塊がかなりの速度で上昇していくのが目に映った。

「……いや、これってまさか」

頭が状況を理解できてきた時、嫌な予感が脳裏を過ぎり、視線を下へ下がる。そして理解した。

何も上昇などしていない。

自分たちが落ちているのだ。それも、上空のかなり高い位置からかなりの速度で。

「は、あぁぁぁぁぁっ⁉︎」

何度目かの絶叫を上げながら、おそらくはこれの原因と思われる莉緒を探そうとする。だが、その必要はなかった。将真の体に絡みつくように、背中にくっついていたからだ。

「まさか、後はよろしくってこういう事か⁉︎」

ようやくこの状況に至る前の莉緒の言葉の真意がわかった。だが、理解するのが遅かった。

3人はそのままなす術なく__轟音を立て、地上へと落下した。

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