第7話 グレイトドクターブルーレイン
アルティメットジャッジメントエターナルブレード!!
それは女子高生『雨霧巳砂』17歳の有している能力の名称!!
赤光を収束させ剣に変える!!
だがその力にはさらにおそるべき秘密が隠されていた…………!!
今しがたまでの死闘などまるでなかったかのようだった。
襲撃者である少年は、いまや全身を弛緩しきって、ただぼうっと立ちつくしている。
雨霧はというと、その右手から赤光の剣を消し、少年より一歩、二歩さがって距離をとり、
「とりあえずあんた、えっと、名前なんだっけ?」と質問する。
「……伶盗龍」
それは恐れや強いられる様子もなく、ただ教師からの問いに応じる生徒のごとき声音だった。
「じゃ、リンくんさ、あんたって何者?」
「”継承する者”――オレは、”除外者”より救われた」
「ふうン……わからん。継承する者ってなに?」
「彼の地へ行く資格をもつ者のことだ」
「彼の地って……ああいや、とりあえず、あたしをおそった理由ってなにさ?」
「それは――答えなきゃだめか?」
「ダメ。言って」
「それは、ロダ――」
言いかけるが、その言葉を聴くよりはやく雨霧は横に跳んだ。
手をついてコンクリートを転がり、中腰の姿勢で顔をあげたときにはすでに、右手には赤光の剣がのびている。
雨霧がいた位置には、いまは代わりに長身の姿があった。
「それまでデス。それ以上はシーッ、言ってはなりませン」
そうやわらかな声で言い、少年の口にひとさし指を当てたのは、雨霧が路地裏で出くわしたあの紳士だった。
(背後に迫られるまで、まるで気づけなかった……っ)
雨霧の背筋から冷たい汗が落ちていく。
「『アルティメットジャッジメントエターナルブレード』――実に……いや実にスバらしいその力の片鱗、タシカに見せてもらいましタ。ミスター・リン、キミはいま彼女の問いかけによって縛られ、そして答えられなかった代償として罰を受けたというわけデス」
「伯爵様……」
「フフ、”おとなしく”なったものデスネ。そんなキミを見る機会はなかなかありませんカラ、しばらくこのままにしておきたいものデスガ……それでは仕事になりませんネ」
伯爵と呼ばれた男は右手を少年の胸、さきほど雨霧がふれた位置と同じ箇所へかざすようにする。
と、白いシャツの下から赤い発光が放たれ、
「ホホウ! これが”審判”の証――オソロしい力――われわれの切札というわけデスネ! しかし今はまだ必要のないもの。ワタシの『グレイトドクターブルーレイン』にかかればこのとおり」
伯爵の右手から淡く青い光がもれ、すぐに消えると、同時に赤い光も消滅する。
そして伶盗龍もまた、元の激しい気に満ちた表情にもどると、肩をふるわせうつむき、
「伯爵様……オレは……なっ……なんという失態を……」
その足元へ大粒の涙を落とす。
「ヘイ、ミスター・リン! ミスはだれにでもあるもの――カンジンなのはその後のことデス。そのクヤシさ、改めてミス・雨霧にぶつけて、ワタシと二人で彼女の首トッチャイマショーヨ!! ヤッチャイマショーヨ!!」
(まずいっ――――――――)
杖をふりながらの高らかな声に、少女は戦慄する。
十メートルほど離れた距離で、雨霧は二人やりとりをながめていたが、もちろんただ見ていたわけではない。
一瞬でも隙あらば後ろにある金網をこえ、ビルの下へと無傷でおりるだけの体術と自信はあった。
だがそれをさせなかったのは伯爵――これほど離れていても、逃げるそぶりをみせればただちに追撃を受けるであろうと確信させる、おそるべき手練れの一挙手一投足に、少女は動くことができなかったのだ。
(あのクソガキ一人でもまともじゃ勝てなかったのに……あたしのこの力は相手に触れないと意味がない……あの伯爵ってやつにそれができる? いやムリぜったいムリ……ムリだわこれ……ムリゲーきたわ……――い、いや考えろ、マジで死ぬ、考えるの、考えてー巳砂ァ――――――――)
伯爵が仕込み杖から刀を抜くと、少年の髪がゆれ、その周囲へ再び風が吹き始めたのがわかった。
雨霧も赤光の剣をかまえた。結局策はなく、その表情にはせめてどちらかを道連れにするとの決意しかない。
殺気が空間へ渦を巻くように満ちていく。
しかしそのとき、三人より離れた位置から、
「アハハハハハハハハハ!!! そ、そんな、ぎゅ、牛丼を…………!!」
突如、この場にそぐわぬ笑い声がひびいてきた。