第2話 アルティメットジャッジメントエターナルブレード
空気のパンパンにつまった車輪が破裂したかのような音がした。
「えぇぇ――――――――――…………」
しゃがむと共に、こちらはゆっくりともれでるような声が、赤世の口から発せられる。
屋上の柵を両手でガシリとつかみながら頭を眼下へむけた。
マキナの体がみえた。
うつぶせて、きれいな大の字の格好をしている。
体は動かないが、その下から黒くみえるものが広がりつつある。
赤世は歯を強かに打ち鳴らしたが、その腕をつかまれビクリとした。
雨霧が柵の隙間から手をのばしていた。
「立てます?」
後輩の声にうなずくと、赤世はひざの関節を失ったかのように細い足をブルつかせながら立ち上がった。
雨霧はその制服の肩の部分をつかみ、強引に自分のほうへひきもどした。
はずみでバランスをくずし、赤世が落下するかもしれないほどの勢い。
屋上の内側に、赤世の体が倒れこむようにして入ると、雨霧は目線をあわせるように両膝を屈し、
「かつて英国では罪を疑われた者に一切れのパンと、一切れのチーズが与えられたそうです。その理由がわかりますか?」
赤世が答えずにいると、雨霧はその頬を平手で打った。
そしてハッとした顔をむけてきた相手の手を、やさしくにぎると、雨霧は言葉を続けた。
「それらを一度に飲み込めなかった者を有罪とするためです。――なぜ、あそこにいるのがセンパイではなくマキナなのか、よく考えてみてください」
やがて屋上入口へ、騒がしい足音が階下より近づいてくるのがわかった。
雨霧はすくと立ち上がるとそちらへ歩んでいき、教師を連れてきた生徒と出くわすなり赤世のいる方へ視線をやり、入れ替わるように自分は屋上から出ていった。
マキナの落ちた地面には血の跡がひろがっていた。
しかし当の本人の体は、雨霧がきたときにはもうなかった。
携帯が鳴る。
マキナからのメッセージをうけ、学校をでて、近くのカフェ・ハヤシバの裏手にいく。
そこにマキナがいた。
白い夏の制服は血に染まっていたが、表情は普通……というかすこし困ったようにはにかんでいる。
「ミーちゃん、赤世センパイどう? 大丈夫だった?」
「命はまあ、とりあえず。八――いや七人めの自殺者とはならずざんね――……まあ、うん。とにかくまあ」
「そか。よかった」
「つーか見るの二回目だけど、マキナのそれ、不死身ってこと? あたしと同じような力なのかな?」
「ううん、ちがうと思う。ていうかさっき急にわかったんだけど、わたしのはなんだかもっと……なんだろう、もっとこう、よくわからない感じ」
「わかったけど、わからん?」
「うん……明日までにまとめとく。たぶん調べられると思うんだ。――あ、それでセンパイには、ミーちゃんの例のあれ、『アルティメットジャッジメントエターナルブレード』使ったの?」
「マアいちおう……死なれてもメンドーだし。ていうかその名前、いちいち全部言わなくていいから。長いし。くそダサいし」
「えっ、かっこいいと思うけどな……」
「いま略称考えてるとこだから、思いつき次第メッセするんでそのつもりでおねがいします」
「了解です」
かくして、とある夏の日――沈みゆく夕陽のなか――ふたりの少女は別れた!!
彼方の宇宙よりの使者であるらしき少女、詩木瀬マキナ!!
質問を投げかけたのち答えられない相手に解答を明かすことによって発動する謎の力『アルティメットジャッジメントエターナルブレード』の使い手、雨霧巳砂!!
彼女たちは一体何者なのか!!
それは彼女たち自身もこれから知ることになる!!
この星、いやこの世界創世以来最悪の、大いなる悲劇のなかで!!
その時くだりしのちには暗黒の夢は現世にうかび、光の野辺は暗き濁りの泉に没し、緋眼の少女の声もむなしく冷水の深層へと全てが消えゆくさだめなのだ!!