プロローグ(上)
宇宙の中心にミカロと名づけられた存在がいた。
それはあらゆるものからの関渉をうけることができると同時に、あらゆるものからの関渉を退けることのできる力を有していた。
彼は自身がいつどのようにして、またどういった世界で求められて生み出されたものかであるかの自覚がなかった。
ただ意思があり、たびたび呼ばれては関渉する者たちをみて学んだのは、存在には必ずそれを生み出した神があるということだった。
彼自身を神だと呼ぶ者もいた。
それは主にはミカロを召喚した者たちで、多くは彼に破壊を頼む者たちだった。
一方からの意思による他方への破滅は彼によって幾度となく繰り返され証明されてきた力であった。
しかし時には世界の再生や誕生を望む者もいた。
そうした願いも難なく適えては、やはり神と呼ばれるわけだが、ミカロはいつしかそのことに疑問をもつようになった。
それが意思にはこびりついて離れなくなっていた。
例えば幾億かの星が死に、また生まれ、また死ぬの積み重ねの果てに、育まれるひとつの思いがあるとするなら、それは彼にとっては実にふさわしい疑問だったのだろう。
ミカロ自身のことと世界の行末のことだった。
あらゆる時間の平原を見渡すことのできる彼の目でさえ、それは暗い宇宙のガスよりももっと濃い闇に包まれているかのように、彼の力をちっぽけなものだと嘲笑うかのように、決して認識の光のあたる位置には姿をうつさないのだった。
ある時に召喚された地へ、ミカロが降り立ったとき、そこには死にかけの少女がいた。
近くには錆びた鉄の表紙の赤い本があって、彼女の世界のものであろう文字が書き連ねてあったが、数知れぬほどみてきたようにそれはミカロを呼び出す鍵の言葉の結晶だったのだろう。
周囲には元は強大な文明の街であったと思われる光景が広がっていたが、ミカロが呼ばれたときにはすでに残骸と瓦礫の焦土で、煙と死の臭いがたちこめるなかにかろうじて息をしているのはその少女のみだったのだ。
というより、いまやその世界そのものが終わろうとしていた。
再生を望むかとミカロはきくと、血濡れた鎧に身をつつんで両膝をつき、かたわらに倒れすでに亡骸である少年の白い髪をなで、少し微笑んでかぶりをふった。
少女は、この世界はすでに何度かミカロに救われ、そのたびに同じ道をたどっていることを言い、すべてが本当の眠りにつく日がきたことを短く話した。
しかしミカロの記憶では、自身がこの世界に呼ばれるのは初めてだったので、その間違いを正そうとしたが、その前に少女が望みを口にしたので、それを適えてやることにした。
プロローグの残りが書けたらひとつにまとめる予定です。