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ふたり。となりで、  作者: 柳谷ゆいら
序章
2/10

0 プロローグ

 優美に羽を動かし、蝶はひらりひらりと舞って、別の花へと飛んでいく。わずかに(ただよ)う花の香りに、思わずため息をつく。


「おまえ、蝶見てるの、好きだよな」


 壊れ物を扱うように、優しい手つきで頭を撫でながら、彼は言った。


「うん。……綺麗だし、僕らに似てる」


 絡めた腕に力を込め、その肩に頭を乗せる。あったかくって、安心できる。

 くすっと笑うのが聞こえて、僕は目線だけ彼の方を見た。彼もこっちを笑いながら見てて、視線が合うと、ふっと目を細くして。


「身軽なとこが、か?」

「分かってて言ってない?」

「分かってて言ってる」

「もう。いつの間に、そんなふうに育っちゃったの」

「おまえに育ててもらった覚えはねえけど……」

「――僕に似てるのは、花の方だよ」


 昨日も仕事してから、(けい)()場に行ったせいか、やけに身体が重く、頭はすっきりしない。

 頼りなげに風に揺られる花を、ぼーっとしながら見つめる。


「蜜を与えるっていう、花ができる最高のおもてなしで、蝶の相手をして、満足してもらうの」


 (とう)(ろう)の光が、目に映る花のように、ゆらりと揺れる。


「ね? 僕みたいでしょ?」

「……おまえ、酔ってんのか?」

「未成年だから、飲酒できませんけどー」


 普通に笑っただけなのに、なんでそんなふうに言うのさ。頬赤いし。

 まあ、もちろん、理由は分かっている。

 長年刷りこまれた。女であろうと、男であろうと、簡単に《おとす》方法。

 彼は、この方法の王道パターンに、とことん弱い。

 純粋純情で、まっすぐなひと。

 すりすりと頬擦りして、ふわあとあくびを漏らす。


「もうすぐ、明日だぞ」

「んぅ……?」


 重たいまぶたを擦り、彼の奥にある、ふわふわした毛布を指差す。


「ん?」

「さぶい。毛布」

「ああ、分かった。そこで人肌が欲しい、とか言わねえのが、おまえだよなあ」

「言ってほしいの?」

「いんや、べつに」


 ぽんぽんと二回頭をたたいてから、腕を離し、彼は肩に毛布をかけてくれた。服越しに伝わってくる柔らかい感触に、口元を緩める。

 とたんに、ぎゅっと抱き寄せられる感覚に、はっと目が覚めた。

 見上げてみると、当たり前のような顔で、僕の肩を、しっかり抱いてくれている。


「もっと寄れよ。俺も寒いし」

「……うん」


 横に移動してから、そろそろと手を動かし、そっと指を絡める。ちょっと力を込めると、彼もまた、返してくれた。




 ――出会ってから二回目の、12月3日が来る。

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