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斜読三国志  作者: amino
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張繍と賈詡

 曹操勢力の西には、董卓軍の残党たる張繍が、南陽郡、宛城を中心に勢力を有していた。この時曹操は、曹操は劉備、呂布の軍を形の上とはいえ配下に置き、北部平定に忙しい袁紹に遜って講和していた。後顧の憂いを断った曹操は、満を持して荊州北部に根を張る張繍討伐の兵を挙げた。当初、張繍は自軍より圧倒的に巨大な勢力である曹操に降ろうとしていた。曹操軍が宛城まで来ると恭順の意思を示し、南陽太守の印綬を曹操に渡して降伏した。しかし、曹操が張繍の亡き叔父、張済の妻を無理に側室にした事で関係は一気に険悪化する。この時、張繍陣営には、董卓以来の少数の精兵しかおらず、政治的地盤も小さく、大兵を持ち、荊州北部の要衝を押さえた曹操相手では勝ち目が無いように思われた。しかし、この時、張繍陣営には、旧董卓勢力の謀士である賈詡が身を寄せていた。当初張繍は、反旗を翻しても、圧倒的な戦力を誇る曹操軍に攻め込まれ、城下の盟を結ぶしかないかと弱気になっていたが、賈詡の進言を受け入れた。降伏を装ったまま、軍の移動にかこつけた奇襲策を取り、油断していた曹操軍中軍に夜襲をかけたのである。「夜襲だ!」との悲鳴とともに、曹操軍の陣営は火に包まれた。曹操の軍勢は宛城の東西南北に分かれて駐屯しており、張繍軍は退路となる東を除いた全ての城門を制圧してこれらの連携を断った。さらに、城中にある曹操と親衛隊に騎兵突撃をかけてそのほとんどをせん滅した。場内の狭い中で曹操軍親衛隊の歩兵は防具をつけるいとまもなく、騎馬に押され、倒れ、潰されていった。「曹操はどこだ!」「曹操を探せ!」の声が城中に響き渡る。しばらくすると張繍率いる騎兵隊は、城門を空けようと群がる曹操の兵を押し返すようにして、南門から突撃をかけた。突撃を受けたのは曹操の弟曹洪率いる南軍である。なんとか城内に突入しようと、南の城壁や城門にとりついた兵たちを蹴散らして南軍の本陣を突く。曹洪は乱戦の中で討ち死にし、南軍は壊滅した。張繍軍はさらに西に回り、夏候惇の率いる西軍を横合いから攻撃して蹴散らした。夜明けとともに西軍と北軍、東軍は撤退していった。曹操の軍は2割近い兵を失った。逆に張繍軍は、この一戦で曹操軍の親衛隊長典韋、弟の曹洪らを討ち取る大勝をする。以降の曹操との対決には、荊州南部に根を張る劉表の援助もあり、一進一退の攻防となった。結局、曹操は張繍の軍を決定的に破る事が出来ず、袁紹からの取り込みも図られていると知り、再び張繍の取り込みを画策した。曹操はわざと兵を解くとともに、謝罪の文書を張繍へと送った。張繍は賈詡に聞いた。

「君のお蔭で曹操に勝利することができた。今後、私はどうするべきだろうか」

と、片手に曹操、もう一方に袁紹からの書状を持ち、今後の策を問うた。賈詡は答える。

「無論、曹操にございます」

めでたくてしょうがないと言うかのように賈詡は答えた。が、張繍は逆に「そうか」と一言述べた後、肩を落としてこう付けくわえた。「君は長生きせよ」と。

張繍が曹操に斬られる事を予想している、と見抜いた賈詡は、心の中で苦笑しつつも反論を始める。張繍が心を気遣い、賈詡が知恵で答える。それは、董卓政権下からよく見られた光景であった。

「何を言われますか。将軍は圧倒的に強大な勢力の曹操に対して勝利をおさめられました。これで伯父上に対して義理を果たしました。世上の人は皆賞賛しております。また曹操軍に決定的な被害はなく、さらに大義はこちらに有りました。天下を狙う曹操は恨みなどもちますまい。また曹操は、間違いなく北の袁紹と争います。そのためにも将軍の様な強い味方が必要です。必ず重く用いられましょう。つまり、将軍は生きて栄華を楽しめます」

張繍は喜色を顔にたたえてこう言った。

「おお、そうか。まぁ、君は重く用いられるだろう。これは天下の幸いだな」

実際、曹操は張繍の撃破ではなく、何よりも張繍勢力の取り込みを考えていた。この時代、整然とした夜間の作戦行動は当時非常に難しく、各地の要衝を抑えられ、劣勢な状態の中でそれを軽々とこなした張繍軍を敵に回せば、勝利は得られても大きな損失を被ることは確実であった。降伏させるために、戦場における勝利ではなく、相手に降伏しやすい状況を作らせることが肝心であった。「戦場における勝利と、私が謝罪したことによって、彼らには大義名分が立ち、降伏し易くなるだろう」西にはためく張繍軍の旗を見ながら、曹操は1人ごとを言う。「万が一こちらが野戦で勝利をおさめても、彼らは城に立てこもって大いにわが軍を悩ませただろう。袁紹との戦いの最中にそんなことをされては、わが軍はひとたまりもないだろう」負けて悔しかったのか、誰に言うでもなく、独り言を続けるのであった。この後、張繍と賈詡はそれぞれの立場で活躍することとなるが、激動の時代の中、二人の友誼が絶えることはなかった。

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