第9話 うわっ山賊だ!!!
俺たちはロノイを生き返らせるためにゲームマスターだけが住める王国、ハルトゲニアを目指すことにした。
しかし、ハルトゲニアまでは十七の国と四十八のダンジョンを超えていかなければならなかった。
とても遠い旅だった。
俺たちはそれでも、ロノイを諦め切れなかった。
せっかく手に入った遠距離攻撃者だったのに。
なので、別のスナイパーが見つかるか、見つからなければやはりロノイを取り戻そうということになった。
やはり魔王としては暗殺が一番恐ろしいことではある。
「ハルト、とりあえずこの戦車もらっとく?」
「そうしよう」
俺たちは戦車を奪った。
中は五人が悠々と座れるようになっている。それぞれがいくつかの武器を担当できるようになっていた。だいたいが機銃だ。グレネードランチャーもある。
「なんでしょうこれ」
適当にボタンを押したケステスがグレネードランチャーをぶっぱなし、洞窟が崩落した。
すべては闇に飲み込まれた。
「やりやがったな」
「はわわわ」
「まァ許してやろう。いいじゃないか。証拠は隠滅されたのだ」
「証拠ってもアバターは粉々になるから何も残らないけどね。アイテムはすべて頂いたし」
「いいことづくめだな。よし、いこう」
俺たちは戦車を走らせた。
キャタピラがめりめりと大地に轍を残していく。
「むっ」
ウォデスが妙な声を出した。
「敵影確認」
「なんだと!?」
「二時の方角。これは、人間?」
「モンスターじゃないからといって油断するな。おそらくはアイテム狙いの山賊だろう」
「ぶちのめしちゃっていーよねハルト?」
「無論だ。生まれてきたことを後悔させろ」
「りょーかーいっ!!」
フェルが悪党どもに弾丸をぶちこみ始めた。
「ひゃっほーっ! あいつら、ここらじゃ有名なPKギルドだよ! それでいて高レベルには手を出さないんだ。人間のクズだよ」
「クズが死んでいくのはいいことだな」
「ハルトさん! 言葉が過ぎます! 彼らにだって悲しむ人はいるでしょうに」
「ケステス、俺に逆らうのか」
ケステスがいきなり持っていた小さなナイフで俺の足を貫いた。
「ぐわーっ!! な、なにを」
「ハルトさん、正気に戻って」
「お前が戻れ!!!!!!」
「人間の心を無くしちゃ駄目です。消え行く彼らに拝みましょう。なむあみだぶつ」
「い、いやだ」
「ハルトさん」
「ぐあーっ! な、なみあみだぶつ!!」
ケステスがにっこり笑う。コイツおかしくなったのか。もしや神の手先? そもそもシスタージョブだしな。
だが、毎回悪党をこらしめるたびにお経を唱えさせられたらたまらない。少し自重しようか。
などと考えているうちに戦車のハッチに山賊がナタをぶっさしてきた。
「てめえら!! アイテム残してどっかいけ!!」
「きゃあ、ハルトさん助けて!」
「いわんこっちゃねえ、邪魔だ!」
俺は山賊の胸にマギルヌスをぶちこんで粉々にした。
「格好いい! ハルトさん!」
「だろ? うっ」
俺は脇腹を押さえた。
血が出ている。
「くそ、やつら拳銃を持っていたのか。二つのゲームが混線してるってのはよくないことだぜ」
「ゲームシステムが崩壊していますね」
「うう、くそ、眠り弾か、これは。眠くなってきた」
「頑張ってハルトさん! ほら、これをもって」
ケステスがウォデスから何か受け取り、それを俺に手渡した。
「これは?」
「寝ぼけながら槍なんて持たないでください。危ないですから、このテキトーに振り回しても誰かには当たるロングソードをあげます。山賊をこらしめてきて!」
げしっ
俺はケステスに蹴り上げられてハッチから追い出された。く、くそ。状態異常じゃなければあんな女に負ける俺じゃないのだが。
とはいえ、いい加減に戦車にまとわりつく夏の羽虫のような山賊に嫌気も差していたところだ。
ぶっ飛ばしてやる。
俺はロングソードを振り回しつつ、天性のカンで相手の攻撃をすべてかわして撃退していった。
「喰らえ! ストーム・パニッシュメント・デスライン!!」
俺の剣技が冴え渡る。
「くそ、なんなんだお前は!」
「この技、まさか『天才』ミッドハルトか!?」
「あ、あの伝説のゲームプレイヤーの!?」
「そんなやつに勝てるわけねえ、みんな逃げろ!」
背中を見せたヤツから俺は切り倒した。
「俺から逃げれると思っているのか? 誰に喧嘩を売ったのかよく覚えておくがいい。地獄でな!!!!!」
「ぐあああああああああ」
「ぎゃああああああああ」
「ひいいいいいいいいい」
俺はまさに魔王の豪胆さで山賊を絶滅させた。
街道に平和が戻った。
「ふっ。つまらんものを消してしまった」
「ハルトぉーやるじゃん。でも武器破壊防具破壊のせいで獲得アイテムが少ないわ!」
フェルが赤髪をハッチから出してきて文句を言った。
「それにこれって下っ端じゃん。アジトにいるボスとそこにあるお宝がパァよこれじゃ。何やってんだか」
「うるせえな、文句があるならてめえがやれ」
「あーあ。男ってそればっかだよね。いーよいーよ。勝手にしなさい」
知ったようなことを抜かしてフェルが戦車に戻っていった。くそが。
俺はせっかく一仕事したのに苦い気持ちで戦車の中へ戻った。
「こんなときにロノイがいれば」
「ハルトさん、私がいますよ」
「私も」
「ケステス、ウォデス、お前ら……」
俺は二人を抱き締めた。
これは俺のものだ。