第6話 新しい仲間
俺たちはひとまずハミッシュベントから立ち去った。
もう用はない……荒れ果てた墓標になど。
「ねえ、これからどうする?」
「そうだな……ひとまずはクエストをこなしてレベル上げか」
「そんな悠長なことをしていて大丈夫なんでしょうか……」
ケステスが不安そうに言う。気持ちは俺だって同じだ。
「だが、文句を言っていても始まらない。とりあえず頑張ろう」
「そうね」
「ここから一番近いクエストセンターは南西のモルボスの町ですね。そこへは馬車か何かで行ったほうがいいかと」
「距離があるのか……面倒だな」
「今日はここで野営にしましょう」
俺たちは火を起こして焚火にした。
「眠くなってきましたね……」
「疲れているんだろう……こんなデスゲームの中では」
「神経がささくれ立ってしまうものね」
「……ん?」
俺は耳をそばだてた。
森の中から何か音がした気がする。
「いま何か音がしたぞ」
「音?」
「ここで待っていろ」
俺は槍を払って立ち上がった。
森の中へと突っ走っていく。
「まっ、待ちなさいよーっ!」
聞く耳を持たない。
五分も走ると俺の前にモンスターが現れた。
「くっ、雑魚が」
俺の素晴らしい一撃でモンスターはずううん……と音を立てて崩れ落ちた。
落としたアイテムを漁って俺は進む。
すると泉に出た。
綺麗な泉だ……まるで鏡のようだ。大気は澄んでいて、呼吸するだけで回復していくような気がする……
その泉のほとりに緑色の髪をした少女が座り込んでいた。
「おい……」
「ひっ」
「貴様……何者だ……」
少女は不安そうな瞳で俺を見上げている。
「なぜ俺たちに近づいた……」
「……」
「答えろ!」
「……アイテムを分けて欲しくて……」
少女は俯いた。
「何? アイテム……何か足りないのか」
「食料が……」
どうやらNPCではないらしい。
「お前……プレーヤーなのか」
「そう。でも、人間じゃない。このゲームのなかで生まれた人工AI。それが私」
「なんだと……じゃあワールドスターターが誰なのかも知っているのか」
「それは知らない」
俺は槍を下げた。
始末する必要がなくなったからだ。
「名前は?」
「名前はウォデス」
「ウォデスか。お前、俺の仲間になれ」
「分かった」
ちょろいもんだ。俺は手持ちのアイテムから干し肉などを投げ与えて、ウォデスを連れてキャンプ地へ戻った。
「誰それ?」
「新しい仲間だ。ウォデス、挨拶を」
「よろしく」
「また勝手なことを」
「まあまあいーじゃないですかフェルさん。よろしくお願いします、ウォデスさん」
「うん」
俺たちはそのまま野営した。
モンスタータイプの仲間……斥候などに使えそうだな。
とにかく、やられる前にやるしかないんだ。
これからはワールドスターターの疑いをたくさんのプレーヤーにかけて先にPKしていく必要がある。でなければいずれやられるのは俺だ。
俺は負けたくない。
なので活きていくことにしたのだ。このデスゲームを。
更けていく夜のなかで、俺は、確かな決意を固めていた。
翌朝。
ウォデスの案内で森を抜けた俺たちは無人小屋で休息を取っていた。
アイテム整理をみんなでやる。
「ねえねえ、ケステスのそれとあたしのこれを交換しよーよ」
「いいですよー。あ、じゃあこれもあげます。ウォデスにもあげるねー」
女子たちは楽しそうにアイテムを交換しあっている。
俺はどうもツキがなく、いまいちいいアイテムに出くわさなかった。
「ぷぷぷ、かわいそーハルト。アイテムに嫌われてるのね」
「うるさい」
「元気出しなさいよ。モルボスにつけばこんなアイテム買えるくらいのクエストが待ってるわよ」
「そうだな……」
すると小屋をノックする音があった。
俺は開けてみると、そこにはキャラバンがいた。
「誰?」
「こんにちは」と男が帽子を取った。
「私は物資輸送ギルド、ユーズリアのリーダーです」
「へえ」
「あなたがたを旅の猛者と見込んでご同行願いたいのですが……」
「いいだろう。だが、何か裏があるな?」
「はい。さすがはミッドハルトさま……この先にポップしたモンスターがどうしても倒せないのです。あなたがたには旅費代わりにモンスターを倒してもらいます」
「分かった……」
俺は槍をしごき、男の前で乱舞を見せた。男はぱちぱちと拍手をして、ほっほっほっと笑った。




