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西の魔王の物語  作者: かずほ
前哨
6/9



西の大陸の中央に位置するヴェストリード王国。


かつては大陸一の王国として栄華を極めたその国も今では西の大陸に幾つか存在する内の一国家に過ぎない。


それでもかつての一大国家を治めた王の血筋故か代々の王は多少の差こそあれ、良き王として民に慕われ、西の大陸の中でも一目置かれながら、今に至る。


15年前、自らの命と引き換えに魔王討伐を果たした勇者フェデル・リースターもまた、王家の血縁者であるという噂が(まこと)しやかに流れた。実際の処は旅の吟遊詩人や芝居を主とする者らが、魔王討伐に向かう勇者様によりドラマ性を持たせたいが為出回ったデマが、娯楽を好む庶民らの噂に上ったというのが一番有力な説である。


実際の勇者は人当たりこそ良いモノの、権力を嫌い、国の外れの禁忌の森を住処とし、国より召喚された時以外は(おおやけ)に姿を現す事はなかったと言われている。


そんな庶民に広まった、あからさまな噂を王家は取り合わず、かと言って諌めるでもなく、その噂は流れるに任せていたとか。


真相はどうあれ、生家こそはっきりしないものの勇者フェデルがヴェストリードの生まれである事は事実。


とかくヴェストリードの人間は西の大陸の危機を救った勇者への崇拝、尊敬、力の入れようが半端ない。


年に一度、勇者が魔王を討ち果たしたその日は国をあげての一大イベントが催される。

魔王の乱心によって勇者を初めとする命を落とした者たちへの追悼と平和をもたらした勇者を讃える祭典。


朝、魔王討伐及びその他犠牲になった人々の魂を弔う鐘が鳴る。


城の大広間には国王を始めとする国を支える大臣、騎士、魔導士達が一同に会し黙祷捧げる。


それは優秀な魔導士を育てる王立魔導院に属する見習い魔導士達も例外ではない。


年に一度行われるこの祭典をリオ・グランは毎年憂鬱な気持ちで迎える。


やる事さえやっていれば、多少のサボリも大目に見るおおらかな魔導院の院風も、この時ばかりはそうも行かない。


普段の黒いローブではなく、白い礼服に重たい気持ちで袖を通す。

滅多に着ない礼服のボタンや留具に苦戦しつつどうにか着替え終えたその姿を鏡に映す。


姿見に映る姿は一見すれば14、5歳の少年。黒い髪は短く、普段であれば、勝ち気に輝く黒い瞳にも今日ばかりは力がない。


コンコン、というノック音に返事を返せば見知った少女マレーナ・モルブが顔を出す。


腰まで伸びた豊かな栗色のゆるく二つに分けて束ねた髪はついつい手を伸ばしたくなる柔らかい髪。


薄い眼鏡の向こうにある水色の瞳は15才という年の割に理知的で落ち着いて見える。


鼻の上に散ったソバカスは、彼女曰くコンプレックスなのだそうだが、それがまた愛嬌と親しみ易さを醸し出す。


美人ではないが、十分に可愛い少女は部屋に入ってくるなり腰に手を当て憤慨した様子で歩み寄ってくる。


「遅いわよ!!リオ!!」


びしりっ


鼻先に指を突きつけられて、つい及び腰になりながらリオは苦笑いを浮かべる。


「ややこしいんだよ、この礼服」


そう言って着こなしたとはお世辞にも言えない自分の様を腕を広げてマレーナへとみせると彼女からは深い、深い溜息を頂いた。



「本っ当に信じられない!」


マレーナは大変ご立腹の様子でリオの前をずんずん歩く。


「礼服一つまともに着れないなんて、一体どんな育ち方したらそうなるのよ」


「細かすぎるんだよ、この服」


面倒臭そうに白い生地をつまみ上げる。


「あんたが大雑把過ぎんのよ!!」


「ごめん、悪かったってば」


振り返りながら怒鳴るクラスの密かな人気の少女にリオは引きつった笑顔で謝る。


「よう、相変わらず仲良く喧嘩してんじゃねーか」


そんな二人にかけられた声はからかいを含んだもの。


「「ヴィー」!!」


二人の声が重なった。


よう、と片手を上げて寄ってきたのは、魔導院に隣接する士官学校で実力を認められ、この度晴れて騎士見習いに昇格した少年。


茶色の髪と緑の瞳は西の大陸の、特にヴェストリードに多く見受けられる配色だ。


にかり、と笑う少年の笑顔にリオは思わず見つめてしまう。


「どうした、リオ」


遠いとも近いとも言えない記憶の中のかつての面影を探してしまっている自分に気づき、リオは慌てて首を振る。


「ごめん、なんでもない!」


原因はわかっている。今朝の夢見が悪かったせいだ。


そんなリオの様子にヴィーは困った様子で頭を掻く。

普段は元気すぎる友人が、この日ばかりは様子がおかしいのは毎年の事。

それは目の前の魔導士見習いの友人だけに言えた事ではなく、15年前の戦いで親しい者を失った哀しみが癒えないでいる者はちらほらいる。


最も、目の前でそれを目の当たりにした訳ではない自分達の年代では実感らしい実感がない者がほとんどだ。


普段口の減らない、喧嘩を売られたら倍返しを基本とする友人の元気のない様はどうにも調子が狂う。


そんな様子をにまにましながら伺うマレーナにも腹が立つ。


(友達(ダチ)が心配で何が悪いよコノヤロー)


そんな意味合いも込めてマレーナを睨むが、睨まれた本人は『別に』と言わんばかりに小さく肩を竦める。


「それより、ちょっと面白い噂を聞いたんだけどさ!」


この際マレーナの意味深な視線は意識の外にやり、緑の瞳パッと輝かせたかと思うとリオとマレーナに手招きし、声を潜める。


自分の仕入れた眉唾ものの他愛ない噂話が気晴らしになれば良いとヴィーは話だした。


「今王国が厳重保管してる魔剣が偽物で、本物は西の魔王の居城にあるって話」


「!」


リオの心臓が大きく脈打った。








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