目覚め
「!」
がばり
男は弾かれたように跳ね起きた。
瞳孔は収縮し、肩で粗い息を繰り返す。
脳裏に強く焼き付いているのは真紅の煌めき。
「なん…」
なんだ、と呟きかけた口が止まった。
ふと、己の手を見る。感じたのは明らかな違和感。
身体を覆う長い黒髪。
その身に纏うのは闇の衣。
「お目覚めですか?」
コツリ、という靴音と共に突然聞こえた声に彼は眉を潜める。
「ギルディア…」
「覚えてましたか」
満足げなその声に忌々しさに今度は眉間に皺が寄る。
嫌々目を向ければ、淡い金髪に深蒼の瞳の男が最後に見た記憶と変わらぬ姿で佇んでいた。
「新しい身体の調子はいかがですか?」
男は手を広げ、再び握るとぐっと拳に力を込める。
「悪くはない」
その様子にギルディアは満足げに頷いた。
「では、居城へ。西の魔王」
慇懃に頭を垂れるギルディアに舌打ちした男は立ち上がる。
立ち上がり、意志を込めて掴んだ闇はバサリと翻り西の魔王の身を包む。
その出で立ちは至ってシンプルながら、機動性を重視した出で立ち。
魔王と呼ぶにはあまりにも似つかわしくないその姿に口を挟む者も、ましてや口を挟める者もいない。
その身に宿る力はまごうことなき魔王のモノ。
存在そのものが魔王。
姿形にとやかく煩いのは人間ばかり。
二人の存在は闇の中に溶け消えた。
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