妹との会話 其の参
場所は転じて、家である。
僕は完全に手持無沙汰になっていた。完成したプログラムを起動させる気にはどうにもならない。バグがあるかを確かめるため、一度だけ起動したが。不思議なことに、バグはなかった。普通、いくつかバグはあるはずなのだが、とりあえずラッキーだと思うことにした。
その結果、僕は暇になった。
さて、どうしようか。なんとなく窓の外を眺めてもいい。世界を闊歩するロボットは、なんとなく背徳的な興奮を誘う。まぁ、ロボフェチというどこにいるかわからないような性癖を僕は持っていないので、とりあえず眺めるだけだが。
まぁ、それにも飽きが来る。続いたのは三十分くらいだった。
なんとも微妙な時間である。
「兄さん」
後ろを振り返ると、閉めてあったはずの扉が開いていて、そこから妹が入ってきていた。
「どうした? 湊」
妹は、どことなく不安そうな顔をしている。体もそわそわと動かしていて、落ち着きがない。
「ロボット……大丈夫なの? 村田君も心配していたし」
村田君とは、妹との友達以上彼氏未満な人間のことである。僕はシスコンではないと、断言できるので、その村田君を快く思っていない。だから、とりあえず虫をすることにした。
「大丈夫だろ。死傷者はいないって話だし」
「いたら困るよ……」
「それもそうだな」
笑い話にはならない。沈痛な雰囲気が僕の部屋に充満してしまった。
「あの……さ」
「なに?」
「あれは……お姉ちゃんなの?」
「……!」
いやに心に響いてしまった。違う、違うと僕は自分の中で繰り返すけど、その言葉が受け入れられることは……、いや、受け入れなければならないのだ。
「違うよ。絶対」
「そう……なら、いいんだけど」
妹は、僕の隣まで歩いてきて窓の外をのぞいた。
ヒューマノイド二人(数え方については議論の余地あり)が、目配せをしているようだ。歩行運動を止め、目と目で何かを伝えている気がする。
それがなんなのか、僕たちに知るすべはない。
ヒューマノイドの目の光り方の強弱なんて見てもわからないし、本当に強弱で伝えているのかも、わからない。
十五秒くらい経っただろうか。
ヒューマノイド二人は、後ろを振り向いて、逆方向に歩いて行った。また、闊歩が始まる。
この町の界隈には、どのくらいのヒューマノイドがいるのだろうか。僕は知らなかった。知れなかった。
「ねぇ」
「なんだい?」
「あれは、なんなの?」
「僕にもわからないよ」
「じゃぁ……とりあえず勉強教えて」
「昨日だって満足に教えられなかったけど、いいのかい?」
「うん」
そういって、妹は窓の外を見るのをやめた。後ろを振り返って、歩き始める。
僕は、名残惜しくはないけど、窓の外を見続けていた。ヒューマノイドは視界から外れて、同じ町のどこか遠いところに歩いて行った。
「兄さん?」
妹は僕の部屋の真ん中を一寸行ったところくらいで振り返って、僕を呼んだ。
「あ、ごめん」
僕はすぐさま窓の外を見るのをやめて、振り返った。
妹はヒューマノイドへの不安も確かにありそうな顔をしていたけど、どことなく嬉しそうで楽しそうな顔もしていた。
その理由は僕にわかるはずもなく、なんだろうと頭の中だけで首をかしげて、歩き始めた。
妹は律儀に僕が隣に行くまで待ち続けていて、僕が隣に行ったら嬉しそうに腕を組んだ。
「な、なんだよ」
僕は少し照れながらそんなことを言う。
「いや、なんとなく」
音符がつきそうな感じで、妹は言ってから、歩き始めた。僕はそれにつれて行かれるようについていく。
「で、今日はどこを教えるんだ?」
「えっとね……二次関数」
「あれ、苦手なんだよな……」
僕たちは、妹の部屋を目指している。




