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僕と妹の会話 其の弐

 液晶を文字が滑る。黒い光は画面の下から上に、角ばった動きで動いている。

 さすがに雨の日までは鳥の鳴き声も聞こえないで、つまらないタイプ音と、うざったいパソコンの音だけが響いてる。お世辞なら静かといえる程度の静かさだ。あ、雨音は耳をふさぎたくなるほどうるさかった。

 外では傘を差した小学生が、友達と談笑しながら歩いていた。カエルは気持ちがよさそうに雨を浴びている。空は一面が雲に覆われていて、太陽がさす隙間などどこにも見当たらない。


 昨日より、明らかに効率が悪い。なぜか、キーボードを打つ手が動かない。ふと、窓の外に目が行ってしまう。

 そんな時に、扉がガチャリと特徴的な音を立てた。そのまま床とすれるような音がして、僕の方に傾いてきた。

 そこから申し訳なさそうに、妹が出てきて、流麗なツインテールを揺らしていた。


「どうした?」

 僕はちょうどいいと思い、キーボードをたたき続けていた手を休ませた。もっとも、叩いては消してを繰り返したわけだから、進捗具合は、お世辞にも良いとは言えない。

「いや、なんとなく」

「なんとなくで人の部屋に入るなよ」

「ごめん……」

「そこまで神妙になることじゃないけどさ」

 妹は俯いていた。僕はまた画面に向かいなおすと、少しだけ文字を打ち、これまで拡張を続けていたプログラムを始めて完成させた。

 雨は、降り続けている。車が一つ道を通ると、水たまりからバシャアと水がしぶきをあげ、わが家の庭に混入してくる。

「ふぅ……」

 僕は一つ息を吐いた。全身から力が抜けていく気がした。

「どしたの?」

 妹は僕を怪訝そうな目で見つめている。

 そして、なんとなく億劫そうに扉を閉めた。


「完成したんだ」

 妹は僕の言葉に少しだけ驚き、目を見開かせた。身を乗り出して、こちらに興味深々な様子である。

「あれが?」

 あれ呼ばわりされると、半年足らないくらいの僕の努力を無碍にされた気がして、少し悲しくなった。

「そう、あれ」

 妹の言葉は要領を得ないが、僕が創っていたプログラムのことを言っているであろうことは、想像に難くなかった。

「おめでとう」

 彼女は短い言葉で僕を祝福した。もちろん、それが本心からかなんて僕が知るすべはないし、知ろうとも思えなかった。彼女の瞳は、ただ、プログラムが書きだされた画面に向かっている気がした。


「ま、完成はいつでもできたんだけどね」

「そうなの?」

「最後の一行だけ書かなかったんだ。そこ以外に、人間に近づけるようなものを毎日毎日つけたしたくてね」

「なんで、完成させなかったの、デバックとか、やらないとじゃ……」

「気分的な問題かな。別に、今すぐに完成させるより、完璧な彼女にしたかったしね」

 僕が彼女といった瞬間、妹は少しだけ目を陰らせた。

「そう……なの」

「うん」

 外は雨が続いていて、ゲコゲコと気持ちよさそうに喉を鳴らすカエル以外は、外に出ようとは思わないだろう。僕も思わない。にしても、やることがなくなってしまった。ここ半年はずっとパソコンに向かっていたので、何とも暇である。


「完成させてから、付け足せないの?」

「うん……できるかな」

「やるの?」

「やらないよ」

「なんで?」

「完成したモノをいじるのは、駄目だろう」

「みんなやっているのに?」

「外は外、うちはうち、僕は僕」

「完璧にしたくないの?」

「不完全ゆえに完璧なんだよ。きっと」

 妹は、また黙り込んでしまった。自分でもむちゃくちゃなことを言っていると理解しているが。だが、信念は曲げたくないんだ。

 雨音と、カエルの鳴き声。それのみが部屋の外から微かに入ってくる。パソコンの機械音もそのままだ。


「ごはんよー」

 親が飯に僕たちを呼んだ。妹はそれに気づいて、

「宿題またあとで教えてね」

 と言い、扉をありえないほどの速度で開けて、急きながら階段を大きな音を立てて下りて行った。

「あんま、期待しないでほしいんだけどな」

 僕はそうつぶやくも、それが妹の耳に届くことも、彼女の耳に届くこともなかった。仕方なく、僕も階段目指して歩き始めた。

 背中からは、五月蠅い機械音が聞こえていた。


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