帰宅
僕が家に帰るまでの間、新たな死体を十体ほど見た。それは僕の空虚感を後押しするだけであり、それをモノとしか見れていない自分に気が付いて愕然とした。でも、優先度から言うと真ん中あたりだ。
走る気力もなく、ただ歩く。
はたから見れば、こんな情勢の中国道のど真ん中を堂々と歩く奇人に映ることだろう。でも、僕はヒューマノイドの気配を感じた瞬間に「撃つな」という言葉を言えば身の安全は保障されるのである。
そんなよくわからない力があるだけで、僕は安住の我が家に帰還できる。なんでそんな恩恵を僕ごときが授かったのかはわからないが、もらえるものはもらって有効利用するに限る。ヒューマノイドが闊歩している現代社会ではそのくらいの強かさは必要だろう。
それにしても、妹はどうしているのであろうか。追いつけなかったと心の底では思っていながらも、追いかけていれば何か変わったかもしれないと後悔の念がふつふつとわいてくる。何故、僕はあの時あきらめたのであろうか。心の中でその問いを反芻してみても、答えは一向に帰ってくる気配がない。彼女が僕たちの世界から飛び降りたあと、僕がした決意はその程度のものだったのか。
あの時感じた喪失感を、二度と味わうまいと心に刻んだのはそんなに簡単にはがれおちるのだろうか。
その決意は、このような状況でこそ強固に存在し続けなければいけないのではないだろうか。
問をいくつもいくつも考えても、僕は何も答えを出せず、ただ、歩くだけであった。
ヒューマノイドは対処できるようになるとただただうっとうしいだけで、真夏の寝床周囲を飛び回る蚊と同等くらいの存在へと成り下がっていた。
僕の家が見えた。もう、我が家にはついてしまったらしい。
「はぁ、」
と、一つため息をついた。
僕は何をしているんだ。
決断を迫られているのはいまではないのか。
だが、こんな時に何も決められないのが生粋の日本人の性らしい。
僕は何も選ばなかった。
選べなかったのかもしれない。
選んだことは、あっただろうか。
追い詰められたことはあっただろうか。
泣き言で自分の世界を埋め尽くし、ごまかし、ごまかし、すべてをごまかし、自分すら、他人はもちろん、何もかもごまかし。
僕は、そんなつまらない生き方を繰り広げていたのだろうか。世界は僕に優しすぎたのではないのか。
ごまかしは真実としては受け取られなかったとしても、ごまかしで生活できていく世界が悪いのではないのか。
それが、いきなり牙を剥くなんて酷いじゃないか。
僕は、どうすればいいのだ。
扉を開け、朱の世界から安息のエデンへと到着する。
息を吐くことはせず、ただ倒れこんだ。
血に塗れた服は、床すらも感染させる。
もう、何が何だかわからない。
蚊が人間を殺して、僕は殺されない抗体を持っている。
何がなんだが、わからない。
まぁ、いい。なるが様になるさ。
僕は意識を手放した。




