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最終章「宇宙の果て」

人類が宇宙を旅してもう1万年以上が過ぎた。

人類の宇宙征服は目前となっていた。

もう始まりなどは忘れていた。

人類は宇宙にある数々の星を征服していった。

そして地図の中の最後の空白である、一つの恒星と惑星にたどり着いた。


この星を征服すれば、長年の夢だった、人類の宇宙征服は終わる。

相対論を始めとする数々の理論及び観測の結果、この惑星の先には長く続いた平坦な宇宙の終わりしかないからだ。

宇宙は膨張しているのでその果てには何があるのか予想すらついていない。

宇宙の果てがどうなっているのか、興味はあるが

それはこの最後の惑星を征服したあとで勝手に探検家が探索してくれるだろう。


青く澄んだ星だった。

その星を宇宙空間から眺めていると、なぜか人々はなぜか懐かしい気持ちになったようだ。


これから征服のための情報収集が始まる。

今まで征服してきた惑星とは違い、今度の星は少しばかり手ごわいようだ。

まず、文明が発達している。

文明レベルは今まで征服したどの星よりも上に見えた。

むしろ、この宇宙船地球号に匹敵するレベルかもしれない。

長い戦いになる。



俺は空軍のパイロットとして戦地に赴くこととなった。

空の上からみるとこの星はとてもきれいに見えた。

しかし、降り立ってみるとそこにある大地はとても美しいとは言えないものだった。

がれきの山。

まるで人の手の加わっていない荒廃した世界。

そんな場所ばかりだった。


そんな中、一部の地域に人が密集して住んでいる。

陸地の中で主だって人が暮らしているのはほんの数パーセントみたいだ。

それ以外の土地は荒廃しきっていて人が暮らせるような場所ではなかった。

もちろん、荒廃した土地でも人が住んでいるケースもあったが、ほとんどの場合無法地帯のようなものだった。

逆に人が集まっているところでは驚くほど文化や技術が発展していた。


一度自分が空爆した地点を後日見に行ったことがある。

見たものは破壊された町。

自然も破壊していた。

心が痛む、しかし、そのような余裕を戦争中に持っているわけにはいかなかった。


そしてまた俺は、この星を破壊するために戦闘機に乗っていた。

しかし、今回はいつものように順調にはいかなかった。


先の戦いでエンジンを少しやられた。

このままだと空軍基地に戻ることさえかないそうにない。

仕方なく俺の戦闘機は近くの陸地に不時着した。


人や生き物どころかまともな植物さえ見えない。

荒廃している場所の中でも、最も悲惨なところに着陸してしまったらしい。


-ここはヤバイ-

そう悟り一目散に走り出した。

疲れたら仮眠をとりながらほぼ丸一日くらい歩いただろうか、ようやく草木や人を見るようになってきた。

しかし、ちょっと雰囲気がおかしい。

そう、なんというか、社会としてなりたっていない感じがする。

言うなれば無法地帯という雰囲気だ。

しかし少し前までそれよりさらにおかしな場所にいたせいか、こんな場所でも生命がいるだけ安心してしまう。

おかしな連中3人くらいにからまれた。

この星の言葉は分からないが、おそらく金品でも要求されているのだろう。

空軍とは言え、そこいらのごろつきにやられるほどやわな鍛え方はしていない。

ごろつきはあっさりとのして基地の方向に歩いていった。


無法地帯のような場所は抜けたが、次は山の中に迷いこんでしまった。

その上、ずっと歩き続けていた自分には体力の限界が近づいていた。

しばらくろくに食事もしていない。

俺の命はここまでか、そう思うと悔しくなってきた。

しかし、限界にはあらがえず俺はその場に気を失った。



眠っている間俺は夢を見ていた。

夢の中で俺は祖父が話してくれた、ある童話を思い出していた。

「私たちの祖先はね、最初はある母星に住んでいたんだ」

「そこである少女と恋をし、その少女は今でも始まりの星でずっと待ってくれている。その少女の名は…」

そこで、夢から覚めた。


目が覚めた時、一人の少女が俺のそばにいた。

美しい長い髪と、きれいな笑顔が印象的だった。

助けてくれたようだ。


ここは…どこだ?

家屋の中のようだが。


少女が話しかけてきた。

言葉は…さすがに分からない。

知らない星の言葉は理解出来ない。


少女が手招きしている。

ご飯を出してくれた。

…毒か?

俺はこの星を侵略しようとしている兵士の一人だ。

ここで毒をもられたとしても不思議ではない。

が。

その少女のほほえみは全てを癒してくれるようだった。

この笑顔を見て、ここに毒がもられているか考えるなど無粋というもの。

最悪ここに毒がもられていたとしても恨みはしないとさえ言えるほど、きれいな笑顔だった。

俺は疑うことをやめた。

もともと、助けてもらわなければ戦場で死んでた身かもしれないのだし。


数日寝込んでいたみたいだ。

体にどこも異常はない。


だが今は戦時中、急いで上司のもとに戻らないといけない。

そう思っていたが、起きあがったらふらついた。

少女が無理はするなとジェスチャーで示してくる。

仕方がない、しばらく世話になるか。


昼頃には立ち上がれるようになったので、家の外に出てみることにした。

きれいな景色だった。

小高い岡のふもとにこの家があった。

岡は緑で覆われていた。

この星にこんな美しい場所があったのかと、感動に心を奪われていた。


少女に岡の上に連れていかれた。

きれいな景色だった。

そして一つの疑問が生まれた。

俺たちは、なぜこんなきれいな景色を戦争で破壊してるんだろう。


「ありがとう、名前は、なんていうんだ?」

少女は無邪気な顔で首をかしげた。

言葉が通じないらしい。

仕方ないから、自分を指しながら、

「キョウ」

といった。

そして相手の方を指さした。なんとか通じたらしい。うんうんうなずきながら

「ハル」

と答えてくれた。


少女の名前は、ハルというらしい。

ハル…ハルという名前に俺は聞き覚えがある。

確かに、人の名前だ。

なぜだ?


俺はそれなりに衰弱していたらしく、回復するのにそれなりの日を要した。

ハルは俺の面倒をよく見てくれ、俺もそんな日々を悪くないと思っていた。

ハルは山間の村で祖母と二人で暮らしていた。


回復したならば戦地に戻らなければと思う反面、戻ってどうするという葛藤に最近囚われていた。

死地に赴き、生きるか死ぬかの戦いを国のためにするのか。

そもそもそこまでの義がこの戦いにあるのか、俺は疑問に思いながら戦っていた。

いっそ死んだことにしてこのままここで過ごしてしまえないか。


そうこう考えているうちに、俺は一年ほどこの家に厄介になっていた。

一年もすれば、ある程度この星の言葉も分かってきた。


この星のこの地方には宇宙船地球号にはないもの、四季があった。

始まりは春だった。

きれいな桜が俺とハルの出会いを祝福してくれていた。

俺はまず必死にこの街の言葉を勉強した。

そのかいあり、春が過ぎて夏がくるころには一通り日常会話はこなせるようになっていた。

俺達の使っている言葉に多少なりとも似通っているようで、上達が早かった。

夏になると山は緑でいっぱいになった。

川の水が心地よく、二人でよく遊びにいった。

秋になると過ごしやすい気候になり、二人で読書をした。

冬になるとその地域にはちらほらと雪が降る日があった。

そらから結晶が落ちてくるという宇宙船地球号では見かけない光景に、俺は心奪われていた。

そしてまた春がやってきた。


今ではここの言葉もほぼ不自由なく使えている。


今日は川の水をハルと汲みに来ていた。

「ここをずっと向こう側に行くと、何があるんだい」

ふとずっと気になっていたことを尋ねてみた。

俺が最初に不時着したあの場所、そこを現地の人たちがどう思っているのかを知りたかった。

「あっちにはね、人の住めない土地があるよ」

「俺、その場所を知っている。最初不時着したのがその場所なんだ。

あの場所は、最初からあんなふうだったのかい」

ハルは少し思案してから言った。

「あの荒廃した土地はね、昔の核戦争のせいで出来た土地なんだ」

それは、衝撃的な言葉だった。

「核兵器が使われてこの世界はどんどん壊れていった。

しかも壊れるだけじゃなく、放射能によって汚染されたの。

今は草木すら生えずに立ち入り禁止になっている。

草木がようやく生えるところになってても、まともな人じゃすめない街や

無法地帯のような禁止区域なの」

そうなのか。

宇宙船地球号は宇宙を旅していく中でいろいろな星を見た。

けれども、核戦争で荒廃した惑星というものは初めてかもしれない。


「そんな歴史がこの星にあったんだな」

「えぇ。でも暗い歴史の話ばかりじゃなんだし、じゃあ、ひとつ昔話をしてあげる」

「ほう。楽しみだ」

「私のハルって名前はね、ずっと昔のご先祖様からもらったんだ」

「へぇ」

「1万年も前のご先祖様だって」

「すごいな。その名前大事にしないとな」

「ありがと」

そして、ハルはその昔話を話し始めた。

だが、俺にはその話には聞き覚えがあった。

「それで、私たちの先祖の女性はその船に乗った愛した人を送りだしたの。

それで、いつまでも待ってるって話があるの」

「俺、その物語知ってるよ、有名じゃないか」

「え?」

「あれ?」

自分でいいながらおかしなことに気付いた。

有名も何も俺はここで住み始めて1年。

その話をハルたちから聞いたことなんてない。

なぜ同じ話を知っているんだ。

「私、この話をキョウにしたことあったかな」

「いや、ないよ」

「キョウの故郷でも有名なの?」


まさか。

まさか。

まさか。


「ハル」

「なぁに」

「宇宙船地球号って知ってるか」

「えぇ」

ハルは遠い目をしながら言った。

「私たち、人類の希望よ。1万年も昔の話だけれど、私たちの祖先は宇宙を旅しに出発したの。」


その話を聞いた瞬間、頭の中がぐちゃぐちゃになり冷静な思考が停止した。

なんということだ。

人が宇宙の果てと思って破壊と虐殺を繰り返し、征服をしようとしているこの星は。


まぎれもなく。我々の出発点。


地球だったのだ。


なぜなのか。

学者たちによると観測に狂いはなかったはず。

一般相対性理論の解によると、宇宙には閉じた宇宙、平坦な宇宙、開いた宇宙の三通りの可能性があった。

その後の観測により、宇宙は平坦で長く続くという結論にたどり着き、果てに何があるかは予測もつかないでいた。


しかし、実際は宇宙は閉じていたのだ。

宇宙は、いうなれば地上のようなものだ。

有限であるが果てはなく、果てにたどり着くことなくループする。

古代の地上の人も、最初は海の外には何もないと思っていたらしい。

しかし、トスカネリの地球球体説を信じ大航海時代にコロンブスがアメリカ大陸を発見し、

マゼランが世界一周を果たし地球が丸いことが実証された。

しかもそのコロンブスでさえ、最初アメリカ大陸をアメリカ大陸とは認識しておらず

その生涯を閉じるまでアジアだと思っていた。


つまり、それと同じように、私たちは宇宙を一周しスタート地点の地球に戻ってきたのだ。


なぜこのようなミスが起きたのか。

きっと例を挙げるなら天動説と地動説のようなものだろう。

ガリレオが地動説を唱え宗教裁判に掛けられた話はあまりに有名である。

天動説は古代ローマのプトレマイオスが唱えその後1000年にわたり盲信されてきた。

しかし、古代ローマよりさらにむかし古代ギリシャでは、アリスタルコスによりすでに地動説が適用され、

地球が太陽の周りを回っていることが予測されていたのだ。

コペルニクスやガリレオは、古代ギリシャ時代の理論へ回帰しただけだったのだ。


つまり、それと同じように、アインシュタインが導き出した解は正しかったのだが、

宇宙船地球号の長い長い旅の間にそれがいつの間にか後退し、予測された正しい宇宙地図が描けなくなっていたのだ。

というよりは、実測に理論が追い付かなくなっていたという方が正しいかもしれない。



宇宙船地球号の政府、地球の政府はこの事実に気付いているのだろうか。

同じ地球の人間同士、争う理由などない。

もし気づいていないならば。

俺のとるべき行動は。


俺たちはここが宇宙の果てに最も近い場所と教えられながら戦ってきた。

宇宙物理学者にも友人はいるが彼らがこの事実を知っている様子はなかった。



「どうしたの、急にずっと黙って」

ハルが俺を横から覗いて心配していた。

ハルと目があったそのとき、俺の思考の中で最後のピースが埋まった。


あるとき祖父が話してくれた童話を思い出した。

「私たちの祖先はね、最初はある母星に住んでいたんだ。

この童話の作者はね、そこである少女と恋をし、その少女はずっとそこで待ってくれている。その少女の名は」


思い出せ、その少女の名は、確か…ハル。


そう、俺たちの始まりの先祖が愛した少女。

その子孫がこの少女なのだ。


1万年もの時を超えて、今始まりの二人の意思がここに再び現れた。


俺達はここが母星ということに気付けなかった。

太陽という星の周りにどんな星があるのかを忘れていた。

そもそも長い長い旅の途中で、宇宙船地球号は地球という星がどんな星だったのかさえ忘れていた。

言葉も大きく変わり通じなくなっていた。


しかし、どんなにお互いの距離が離れようと、どんなに時間が経とうとも、始まりの二人の物語だけは生きていた。


「なんでもないよ、ハル」

「そう」

しかし、俺の心は既に決心していた。


ここに住み始めてから1年。

俺がここにずっと住んでいた理由は戦争から逃げたいという気持ちでは決してなかった。

そう1年前、彼女の笑顔を見た瞬間から俺は彼女に惹かれていた。


ここだけはまだ平和といえ、明日が見えない戦時中であることには変わりない。

この子だけは守らなければ、とずっと思っていた。


一瞬決意が揺らいだ。

この戦争を止めるべきか、ここでこの少女といっしょに幸せに暮らすか。


男として俺が出した答えは一つだった。


この戦争を止める。


今からでも軍の本拠地に戻ろう。


家に戻ってからは身支度をしていた。

流石に俺の挙動に思うところがあったのか、ハルが近くに寄ってきた。

「行くの」

「あぁ」

もっと多く聞きたいことがあったろうに。

彼女が尋ねたことはそれだけだった。

荷造りもほぼ終わり、俺が出ていく寸前になるとハルが最後の言葉を紡いだ。

「いつまでも、待っているから」

俺の返答は決まっていた。

「必ず、戻ってくる」



数日後、軍にはあっさりと合流出来た。

1年も軍から離れていたから俺はもう死んでいることになっているだろうかと最初心配していたが、そんなことはなかった。

「生きてたか、この野郎」

空軍時代の戦友は、俺の生還を心から祝福してくれているようだった。

こんな友人を持ててよかった。

だからこそ、真実を話す気になる。

「ここが、地球だと」

「そうだ、だから戦いを…」

「だから、なんだってんだ」

その一言を俺は予想していなかった。

「言う場所を間違えている。俺達がそれを知ったからって、何も出来ない。

上から命令が出たら、戦わなきゃいけないんだ」

彼の言っていることは正論だった。

「だが俺は、あきらめない」


一兵士の俺達には戦争をどうにかする権限がないことは分かっている。

だからこそ、俺は動かなければならない。

そう思っていた。


しかしどこをどう回っても俺に出番はなかった。

みな、最初の一人と同じ反応をするだけだった。

1年以上も戦争を続けているのだ。

一人の青年が出しゃばって戦争を止められるだろうかという問いに対し、答えは当然決まっていた。


あきらめかけていたそのとき、最後に大きなチャンスを得られた。

軍の最高司令官に会うことを許可されたのだ。

熱く、そして冷静に俺はこの戦争を止めるための意見をまとめていた。


司令に会う時間になると緊張を通り過ぎた。

なんとかして、この思いを理解してほしいと思っていた。

「司令、私の話を…」

「君がキョウ君だね。

君には、これからも空軍のパイロットとして活躍してもらいたい」

司令が俺に会った理由は、最初の一言で理解できた。

俺はパイロットとしては非常に優秀だった。

その俺がパイロットとしての職務に集中せずに戦争中止を訴えていることは、軍にとってマイナスでしかない。

「できません」

「なぜだ」

「ここは、地球なんです。私たちみんなの故郷なんです」

「だからなんだ」

「君は優秀なパイロットだ。君の戦力には期待している」

上が、俺に期待しているのは戦力としてだった。

「そもそも。誰にもこの戦争は止められない」

その言葉は知らぬ間に、疲弊しきっていた俺の心に刃をつきたてていた。


俺は無力な一人の青年だった。

若くして空軍のパイロットにまで抜擢され、エリートとしてこれまで生きてきた。

挫折を知らず、どんな困難なことでも自分の力のみでやりとげられると信じてきた。

しかし、人は一人では何も出来なかった。

自分が正しいと信じていることを実行する力さえなかった。


俺は…無力だ。

心が折れかけていた俺はただその場に立ちすくむことしか出来なかった。


「待て!」

俺のことを呼びとめる声があった気がした。

聞いたことがある声だ。

「彼の話をよく聞きたい」

おそるおそる振り向いてみる。

なぜこんな大物がここにいるのか。

年はとって見た目も落ち着いているが、一目見ただけで分かるすさまじいまでのオーラを発している。

この人のことを知らない人は、宇宙船地球号にはいない。

「聞いたことあるかもしれないが、私の名はカイという。君の名は?」

先の植民地で奴隷解放戦争で活躍し、その後事実上宇宙船地球号のトップにまで上り詰めた人物。


この出会いで、流れは大きく変わっていった。

「キョウ君、と言ったかね。ちょっと付き合ってもらおう」

そのまま別室へと通され、これまでのいきさつを話すことになった。

「ふむ、話は分かった」

俺の中で絶望が一転して大きな希望へと変わっていった。

「まずは、この惑星が地球であることの証明をせねばなるまい」

俺の話を信じてくれた上で、テキパキと仕事を進めてくれていた。

そのあたりは流石だ。

「私の権限で動かせる部隊がある。そこに、資料をそろえてもらう」

必要なことを話した後、その日は解散となった。

この出会いによって、今まで自分には見えなかった希望が見えてきた。


数日後、再びカイさんに呼び出された。

「演説の日取りが決まった」

突然の報告に俺は驚いた。

すさまじい行動力を持っていることは分かっていた。

それにしても、いきなり演説の予定を組んでくるとは、予想の斜め上だった。

「戦争中止をいきなり訴えることは難しいだろう。

だが、この惑星が地球であることは伝えるべきだ」

「はい」

「君にももちろん、いろいろ働いてもらうぞ。司会進行などを任せたいと思っている。」

「分かりました」

自分にもそれなりの大役を任せられることになった。

だが、自分が戦争を止めると言い出したのだからそれは当然だ。

緊張するが、これが何かのきっかけになってくれれば。


とうとう演説の日がやってきた。

俺も自分の仕事内容に対して準備に準備を重ねた。


「戦争も進み、こちらの犠牲も小さくはない。

今日は、この戦争の意義について話をしたいと思う」

とうとう始まった。

時代を変えるための、俺達の試みが。

「みな、聞いてほしい。この惑星は、私たち先祖の始まりの大地、地球だったのだ」

どよめきが走った。

演説が終わるころには会場の雰囲気は一変していた。

もしかしたら、流れが大きく変わるかもしれない。

そう思った矢先だった。

「なんだよ、じゃあ俺達の犠牲は無駄死にだったってのか」

誰かがつぶやいた。

突然の事実を突き付けられて困惑している様子も見られる。

戸惑いはじょじょに大きくなっていった。

中には、カイさんに対して物を投げつける人まで出てきた。


とうとう俺は司会進行役に徹することができなくなった。

「僕はこの戦争にパイロットとして参加しました。

そして戦闘機のエンジントラブルが起き地球に不時着し、一時は死を覚悟しました」

人の視線が集まった。

横で付き添っていただけの人が何を話し始めるんだろうとみなは思っているかもしれない。

「その後僕はこの惑星で一人の少女と出会い、命を助けられ」

一瞬、自分は何を血迷ったことをしてるんだろうと思ってしまった。

「そして恋をしました」

だが続けなければ。

「後に少女はある物語を作った子孫であることが分かりました。

一緒に生活していくうちに、ここが地球であることを知ったのです。

僕たちは始まりは同じ地球の人。

それなのにどうして、僕たちは戦うのですか。

どうして」


でしゃばってしまったと後悔した。

しかし。

俺を迎え入れたのは、拍手と喝采。


思わず目尻に涙が溜まった。

しかし、涙を流すのはこらえた。

最後に一言、ここで言わねばならぬことがある。

最初のころは全く受け入れられなかった言葉。

一時は絶望しかけたこともあった。

しかし今、流れが大きく変わろうとしている。

俺が最後に、ここで言わなければならない。

「戦う理由はありません。戦争をやめてください!」

流れが変わった瞬間だった。


この日をきっかけに何かが起きた。

世論が傾き始めた。

戦争を中止する方向にと。

みなここが地球と知らずに戦っていた。

しかし、その戦いは終わりだ。


物理学者たちの理論は、ただちに修正されていった。

なぜこの惑星を地球と把握できなかったのか、そのことも分かってきた。


新しい理論が構築されるにつれ、いろいろなことがわかってきた。

そもそもの話、カイムが奴隷解放戦争を起こした地球の隣の惑星は

かつてフェムトと呼ばれていたらしく、昔宇宙船地球号の人が移り住んだ星らしい。

つまり、俺達が奴隷として扱ってきて、最後に奴隷反乱によって独立した人たちは、もとは俺達と同じ地球の人だったわけだ。


戦争は終わった。

完全に和解するにはまだ数々の問題が残っているらしいが、それは外交官になんとかがんばってほしい。

もう二度と武力には頼ってほしくはない。

諸所の外交問題は残しながらも、この世界に平和が訪れた。


後日、俺はカイさんに呼び出された。

「来たか」

「話とはなんですか」

正直、呼び出される理由には検討がつかないでいた。

「そのことだがな。

こたびの君の活躍は素晴らしいものがあった。

君を支持する人も尽きない。

どうだね、私の側近として働いてみないかね」

この人はいつも俺の斜め上を行ってくれるが、今回もまた驚いた。

「ということは」

「役職は大臣かそれに準ずるあたりかな」

空軍のパイロットにしかなかった自分が、とんでもない大出世だ。

だが。

「うれしい申し出ですが、僕には帰る場所があるんです」

そう、俺には帰る場所がある。


全てが終わり、戻ってきた。

この村に。

あそこにいるのは。

いつか見た少女。

そのままの風景。

俺は言う。

「ただいま」

少女が満面の笑みで返してくれた。

「おかえりなさい」


(最終章終わり)


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