表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

三章「再開」

三章「序」

宇宙船地球号計画が開始され、早くも1万年のときが流れた。


ワームホールが開発され、そこから人類の宇宙開発の夢は一挙に広がった。

かのように思えた。


人類の歴史が融合されてからしばらくは、世界は宇宙地図を作成することに躍起になった。

しかし、宇宙は広すぎたのだ。

本来ならば、太陽系から最も近い恒星まで1000年かかる予定だった。

それが10年に短縮されただけだ。

さらに、銀河系を把握しようとしたら、このスケールではすまない。


ところが、一人の天才の出現のおかげで、ワームホールという人知を超えた装置が開発された。


かくして、宇宙船地球号計画が再開された。


そして1万年もの歳月が流れた。

人類は宇宙の多くを制圧し人類の支配下に置かれていた。


もちろんそれでも恒星間の移動は1年から10年単位なので、恒星どうしの交流ですら容易ではない。

いつの時代になっても、始まりの地球人が開発した宇宙船地球号が宇宙開発の中心だった。


三章「再開」


俺は陸軍の中将をしている。

仕事は主に新しく発見した惑星の調査及びそこの統治だった。

特に新たに発見した惑星は最初こそうまく交易しているものの、文化の違いなどで軋轢は避けられない。

ただし、核兵器などを用いてしまえば惑星ごと破壊しかねないので、こうして陸軍の出番が増える。

今度も宇宙船地球号の統治に反発した惑星に対して武力鎮圧を行う。

どちらかというと、警察と仕事内容が似ているかもしれない。


宇宙船地球号の一般市民の生活環境はおよそ1万年前と同じらしい。

1万年前の20世紀に映像、携帯、移動手段として鉄道や車が発達し、そこからおよそ文明的には大きく変わらない。

そう、文明は大きくは変化しなかった。

しかし、それ以外の人と人とのつながりの面で大きく異なることが起きた。


案の定、征服した星の一つが蜂起を起こした。

俺はそこの武力制圧に出かける準備をした。

「俺は行ってくる。お前は留守番をしていろ」

カレンという奴隷に言いつけた。

「はい、ご主人さま」


奴隷が流通していることだ。


俺は毎日この少女を人形のように扱っていた。

奴隷だからとか、違う惑星の人だからとかそんな理由ではない。

俺には、俺専用の意思を持った人形が欲しかったのだ。


かと言って残虐な扱いをするわけではない。

ペットを愛している人がいるように。

俺はこの少女をペットのように愛しただけだ。


今までに、人類に似た生命がいた惑星はいくつかあった。

不思議なものだ。

これほど多くの星を制圧してきたのに、たいてい文明が発達している星には人と似た種がいた。

全く違う星、全く違う環境で育っているにも関わらず、おおよそ人であるのだ。


最初宇宙船地球号の人たちは別の星の人たちと友好的関係を結ぼうとしていた。

しかし文明レベルが圧倒的に劣っているのを見て、例外なく制圧、圧政の方向に向かっていった。


かつて、大航海時代の後に西洋の国が、アフリカやインド、東南アジアの国々を植民地化したのと同じように。

そして鎖国が終わった後に日本が東アジアの国を制圧したのと同じように。

歴史は、繰り返される。


「何をしているんだい、カレン」

「ご主人さま、おはようございます。

今は花を愛でている最中です」

奴隷という身分ではあるが、カレンに花はとてもよく似合っていた。

俺は毎日、カレンが花を摘んでいる姿を見るたびに幸せな気持ちになった。

奴隷というよりは、使用人と言った方が実情には合っているかもしれない。


前回宇宙船地球号が制圧した星の先住民は肌が白かった。

恒星の光が弱いせいだろう。

カレンも肌が白く、細い体をした少女だった。

俺はこの少女を買い付けた。

しかし、この後どうすればいいか分からなかった。

他の貴族のように奴隷を壊しているような「遊び」は俺には出来なかった。

せいぜい、しばらくはせいぜい身の回りの世話をさせるだけでも十分だろう。

まぁ知らない男に奴隷として買われるだけでも十分な不幸だろう。


今はついこの間征服した星の先住民がよく奴隷として売られていた。

彼らは文明こそ劣っていたものの、人と同じような知能を持っていた。

現在の法律では、まだ事実上の奴隷はペットと同じような扱いであった。

しかし、市民にとってみれば、人と同じような背格好で、言葉を解する知能を持っている生命を

犬や猫と同じようなペットとしては扱えなかった。


だが人によっては奴隷の扱いはペットよりひどい。

この間は、とある貴族の家に招待され奴隷を扱ったゲームを見せられた。

そのあまりの凄惨さに、私は途中でそのパーティーを抜けだしたほどだ。

すでに倫理感が壊れているとしか思えなかった。

人一人を自由に扱えるということ、そこに倫理感がなくなっては悲惨なことにしかならなかった。

人によっては慰み物にしている人もいると聞く。

また、馬車馬のように働かせている人もいた。

まさに、奴隷というのが適切であった。



今日は反乱を止める際に、かなりの怪我を負ってしまった。

日々、植民地の奴隷の解放運動が盛んになってきている。

俺もこの仕事柄、いつ命を落としてもおかしくないかもしれない。

だが、この仕事に誇りを感じている。


「ご主人さま、そのお怪我は!?」

カレンという奴隷が、大慌てで俺のそばに来た。

「ちょっと、仕事でへまをした。命に関わる怪我じゃないからあまり気にしなくてよい」

「そんなわけにはいきません!」

普段は従順な使用人だが、俺が怪我をしたときは大げさに心配してくれる。

正直さっきはあぁ言ったものの、あまり軽い怪我じゃないから助かった。

カレンの日々の介護は俺にとても献身的だった。

その姿は、白衣の天使と呼ぶのにふさわしいものだったかもしれない。

俺はその姿に見惚れていた。


ああ。

今更になって気づくなんて。

俺はこの少女を愛していた。

花を摘む彼女を毎日美しいと思いながら眺めていた。



俺が彼女のことを好きなことを自覚してから、日々葛藤だった。

彼女が奴隷として買い物に出かけ、店やの主人との世間話を聞いただけでも嫉妬した。

俺がいないとき、彼女がどういう風に過ごしているのか気になった。

今頃彼女は何をしているのだろう。

そんなことばかり考えるようになり仕事すら手につかなくなった。


俺は深いため息をつきながら、近くにあったバットに手を伸ばしそのたばこに火をつけた。

たばこがあれば少しだけ落ち着いていられる。

少しだけ、この異様な愛情を忘れ普通の人に戻れている気がした。


だが、もうこの気持ちを抑えることが出来なかった。

彼女を束縛してしまいたい衝動だけが今あった。


ふと思った。

カレンは立場上俺の奴隷。

この少女に恋をしたところで、すでに少女は俺のものであることに変わりない。

俺の最愛の女、そして最愛の奴隷だ。

彼女をどう扱おうと、俺の自由だ。


ふと、彼女が買い物に出かけている際に、近所の若い男とあいさつ、世間話をしているのが目についた。

嫉妬した。

だめだった。

「お前はもう、この先外出するのを禁止する」

それを見た後、彼女に対して出た命令がこれだった。


「お前はもう、この先これをつけて生活なさい」

常に足枷をはめることを命じ、屋敷の外に出られなくした。


次は健でも切っておくか。

いや、傷つけるのは好きではない。


奴隷の生殺与奪は所有者に与えられていた。

俺が少女に何をしようとも、罪には問われない。


カレンは俺により束縛された毎日を送ることになった。

しかし、それでも彼女は笑顔を失うことはなかった。

「おかえりなさい、ご主人さま」

足枷を嵌められて、部屋から一歩も出ることすら出来ないでいるのに、その笑顔を失わないのは俺にとってさらに魅力的に映った。

この強さは一体なんなのか。


その笑顔に俺はますます虜になっていった。

なぜ彼女はこのような境遇でも笑っていられるのか。


そして、俺のカレンへの愛情はさらに留まることを知らなかった。

もはや、どれだけどれだけ束縛しようとどれだけ愛そうと足りなかった。

もうどうしようもなかった。

彼女を自分だけのものにしたかった。


ある日ふと思った。

私は国の治安を守るという誇りある仕事がある一方、それはいつ命を落としてもおかしくない危険な仕事だ。

殉職二階級特進という言葉すらある。

もし、私が死んだあとカレンが別の男に買われでもしたらと考えたら、それだけで俺の心は苦しみに悶えた。

もう、どうしようもない。

カレンを自分だけのものにしたい。

たとえ、殺してでも。


銃を持ち、カレンの部屋に入った。

「おかえりなさい、ご主人さま」

カレンは、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。

カンがいい、というよりは、銃を持ち俺の切迫した表情を読みとったのか。

「もしや、とうとう私を殺すのですか」

ストレートに聞かれて驚いた。

こちらも、ストレートに返すとしよう。

「お前を、愛している」

「知っています」

「何か残しておきたい言葉はあるか」

そう聞くと、彼女は少し思案してから続けた。

「一つだけあります」

「なんだ」

「私はあなたに殺されようとも、それでも幸せです」

何をいうのだ、この女は。

「だって私は、あなたのことを」

言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、言うな。

今からお前を殺そうとしている男に向かって、お前は何を言おうとしているんだ。

今から俺はこの引き金を引く。

それなのに、今さらになってお前は何を。

「ずっと前から、愛しているのですから」

ぱん。

彼女はもう物言わぬ肉の塊になった。


彼女は、最後に死を受け入れていた。

そして、俺のことを愛していると言った。

確かに、俺がどんな無茶なことをしてもカレンはついてきていたのを不思議に思うことすらあった。

俺はこの少女を異常なほど愛していた。

しかし、この少女はきっとそれ以上に俺のことを愛していたのだ。

「殺して…しまった。俺が、自分の手で、彼女を…」

愛情なのか、後悔なのか、自分でも今の感情がよく分からなくなっていた。

「俺は、俺は、どうすればいいんだ」

愛したものを手に入れた喜びと、殺人を犯した罪の意識にさいなまれていた。


奴隷を殺したところで罪になど問われる世の中ではない。

だからこそ逆に俺の罪は永遠に清算されることはない。


「そうだ」

ある日突然ひらめいた。

「俺も彼女の後を追えばいいんだ。そうすれば、もう一度彼女に会えるかもしれない」


どのような死に方がいいだろうか。

そのようなことばかり毎日考えるようになっていた。

そしてある日、俺は自分で自分の命を絶った。


(三章終り)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ