同居
まなみが退院し、ダイキの母親も回復したので、レストラン奏で快気祝いをする事にした。
〈〈退院おめでとうございます!!〉〉
「悪いわね〜、わたしのために、こんなご馳走作ってもらっちゃってえ〜」
「何言ってんだよ。かあちゃんのためだけじゃねーんだからな!」
「わかってるわよ〜。どうせ、わたしはついででしょ?」
「まあまあ、今日はふたりがメインですから。カナメがほぼ全部作りましたから、味わって食べてやってください」
「すごーい! カナメってオムライス以外もちゃんと作れるのね」
「ちゃんと、って……」
「ん? まなみさん? いつカナメのオムライスを食べたのですか? カナメが厨房入ってから、来店されてないですよね?」
シェフが興味深そうに聞いて来た。
カナメとまなみは顔を見合わせる。
「オーナー〜? そうゆう仲って事ですよ」
ダイキが代弁する。
「そうか。そうゆう仲か」
「師匠! 納得しないでくださいよ」カナメが照れながら言った。
カナメの料理はどれも好評で、完食された。
奏での祝いがお開きになり、カナメはまなみを連れて、自分のアパートに帰って来た。
「ただいまー!」
「えっ! 誰かいるの?」
「いないよ。何で?」
「だって……。ただいまって……」
「あ、あ、習慣なんだ。……引いた?」
「うううん。ちょっと不思議な感じがしただけ」
「さ、入って」
カナメの部屋は殺風景で、きれいに整理されていた。
「何もないから広いでしょ? まなみの物がたくさん置けるよ」と言って笑った。
まなみは、壁に掛けられた向日葵の絵画に目が行く。
「この向日葵の絵、すごくいいね。あたしね、向日葵が大好きなんだ~」
「僕もだよ! この向日葵はかあさんが描いたらしいんだ…」
「えっ! すごい上手!」
「どっかで入選した絵なんだって。とうさんが言ってた」
「……言ってた?」
「うん……。僕のかあさんは、僕が1歳の時死んだ……。とうさんは、今、女の人と暮らしてるみたいよ」
「カナメ……」
「あ、僕はもう平気。大人だからね」
「おとな?」
「何だよ、一応これでも24。もうすぐ25なんだよ?」
「ふへっ、わ、か、い……。あたしと10も違うんだ……。ショック……」
「何言ってるの? まなみだって、十分若いじゃない? ってゆうか、メッチャかわいいし」
カナメは自分で言って照れ笑いした。
「カナメ……。ほんとにありがとう……。あたし、お礼に何すればいいのかな?」
「お礼なんていらないよ。僕の意思でやった事だし」
「でも……、それじゃ、あたしの気が済まないよ」
「なら、気が済む用にしたら?」
「カナメ……」
「ごめん、ごめん。まなみは今まで傷ついて来たんだから、ここでゆっくり身体を治してよ。僕はまなみがそばにいてくれるだけで嬉しいんだ。とにかく今日はもう休んだほうがいいよ」
「そうね。そうさせてもらうわ」
それから、まなみとの同居生活が始まり、10日程が過ぎた。
「身体の調子はどう?」
「お陰様で、すっかり良いみたい。痛むとこもないし」
「良かった……。それで、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
「何?」
「まなみはさ、働く気はある?」
「えっ? あたしを働かせるつもりなの?」
「……乗り気じゃないなら、いいんだけど」
「冗談よ。あるわよ。バリバリ。まだ10代なんだから!」
「へっ?」
「気持ちよ。気持ち〜」
「じゃあ、力仕事も平気だね?」
「あ……、身体はリアルに30代だから無理。体力は老人並みかも……」
「ははは、大丈夫だよ。老人でも出来る仕事だから」
「ほんと? じゃあ、やる!」
「まだ、何の仕事か言ってないのに」カナメは笑った。
「正直ね、退屈してたの。身体も気持ちも落ち着いて来たし、カナメは夜遅いじゃない? 何か始めたいなって、思ってたんだ〜」
「だろう? だから、この間師匠にお願いしたんだ。まなみを奏で働かせてくれないか? って」
「えっ……。奏……?」
「嫌なの?」
「うううん。カナメと一緒に働けるなんて嬉しい!」
「ほんと!? じゃあ、明後日から一緒に行こう」
こうして、まなみも奏で働く事になった。
まなみが働き始めて1ヶ月。
その日もいつものように仕事を終え、ふたりで帰ると、まなみの様子が少し変だ。
「どうかしたの?」
「なんか気分悪くて……。今日はもう寝るね……」
「大丈夫? 僕がずっとそばにいるから、安心して寝ていいからね」
「ありがとう……」
まなみはそれから時々気分が悪くなるようになった。
「まさか――――!?」
そう言えば……、今月来てない……遅れてる……。
まなみは血の気が引いて来るのがわかった。
気分が悪いと、早上がりさせてもらい、恐る恐る自分で検査してみる。
予感は的中した。
あいつの子だ……。
カナメとはまだ未経験……。
嘘でしょ!?
いやだよ! そんなの!
まなみは嘘であって欲しいと願うばかりで、どうしていいかわからなくなっていた。
カナメは、まなみの様子がおかしい事が気がかりだった。
お店にいる時も、辛そうにしていた。
「先輩? まなみさん、体調悪そうですよ。病院連れて行ったほうが良くないっすか?」
「うん……。僕もそう思ってたんだ。明日定休日だし、連れてくよ」
「俺も一緒に行っていいっすか?」
「なんでおまえまで一緒に行くんだよ」
「俺、あの先生にまた会いたいんすよ」
「はあ? まなみの心配じゃないの? ひとりで勝手に行ってよ。僕達にはついて来るな!」
「え~、ツレナイわ~」
「バカ! 遊びじゃないんだから!」
「ヘイヘイ、わかってますよーだ。何かあったらすぐ知らせてくださいよ」
「何かあるわけないだろ!?」
その日の夜。
「明日さあ、病院連れて行くからね!」
「えっ……」
「ずっと顔色悪いし、見てもらったほうがいいでしょ?」
「だ、大丈夫よ。今まで仕事してなかったから、ちょっと疲れただけよ」
「ダメだ! まなみに何かあったら、また辛い思いするだろう? 僕だって悲しくなっちゃうよ」
まなみは迷っていた。カナメに事実を伝えるべきか……。
「あ、あ、のさ……、カナメ……。落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」
「ん? 僕はいつでも落ち着いてるよ。若いのに」と言って笑った。
「そうね、若いのにね。じゃあ、話してもダイジョブかな……」
「どうしたの? そんなに覚悟して聞かなきゃならない事なの?」
「……。自分でもどうしていいかわからなくて……」
「なら、尚更僕の出番じゃない?」
「カナメ……。あたし、出来ちゃったみたいなの……」
「えっ!! ……。でも僕達まだ…………!! ま、まさか――――!」
「そのまさかみたいなんだ……」
カナメは無言のまま、暫くまなみを見つめていた。
「……病院へは行ったの?」
「まだ……。検査薬だけ」
「じゃあ、やっぱり病院へ行こう。ちゃんと調べてもらった方がいいよ。杉下先生のとこなら、総合病院だし、何かあったら相談出来るかも知れないしさ」
「う、うん……」
「僕がついてるから! まなみはひとりじゃないんだよ? その事忘れないでね」
翌日、ふたりは病院へ行った。




