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一章 『日常』→『非日常』(『普通』→『特異』) 3

 バタンッ!!

 ピィーーーーーーーーーーーー!!

 

 扉が勢いよく開け放たれたと思うと、甲高い音の笛の音が部屋の中に響き渡った。

 月波(つくなみ)白雛(しろな)の腕がピタリと止まる。

 

「なにやってるんですかー! お二人ともー!?」


 扉から妙に間延びした、そして笛と同じように少し高い声が二人に投げかけられた。

 その声を一言で表すと、平和的、である。なんかこうのほほんとしているのだ。

 そちらをむくと、そこには身長が百四十センチより少し低いくらいの小柄で、それでいて足の膝のあたりまで伸びる長い長い黒髪を持つ少女が扉の前に立っていた。


「げっ!! 姫桜(ひめざくら)!」

「えぇぇぇぇぇぇ! ひどっ! 『げっ!!』ってなんですかー!? 泣きますよ、泣いちゃいますよ!」

 

 言葉通り少女は瞳をうるうるさせ、泣き顔を作る。

 


 姫桜今宵(ひめざくらこよい)


 

 それが彼女の名前。その小柄な体から小学生によく間違えられるが、今年から中学校の最高学年になる二人の一つ下の後輩である。

 実際、今でも赤いランドセルが似合うだろう、と月波は思っているが、昔それを口に出したときに泣きだされ、白雛らに正義の鉄槌をうけたのでもう二度というものかと心に誓っている。


「それより、なんでお二人は今から、熱いソウルをぶつけ合うぜッ! 的な状況なんですかー!?」

「はいっ!?」


 そう言われて月波は自分たちの状況を確認して見た。

 月波は白雛の顔から二十センチ手前あたりで握った拳を止めており、白雛は月波の顔から同じく二十センチ手前あたりでその『力』の結晶である電子レンジを簡単にぶった切れる回転カッターを止めている。

 俺のは熱いソウルとかでも通用するだろうけど、白雛のは殺人未遂になるんじゃないの? と月波は思ったが、ひとまず拳を引く。すると白雛も回転カッターを引き、月波は結構ホッっとする。



「あとなに部屋を爆破しちゃってるんですかー!? 減点ですよ! 減点!」



 訂正、新たな危機が到来した。ホッとしている時間はない。



 いつの間にか泣き顔が怒り顔に変化していた。どうやら自らの意思で涙腺をコントロールしていたらしく、さっきの泣き顔は嘘のようだ。

 姫桜は一つ下の後輩だが、『仕事』では彼らの上司なのである。減点を与える権利は当然持っている。


「い、いやこれは……そう! また師匠へのあてつけの不良がなんか投げ込んできたんだよ、爆発物を。いやー、報復っていうのは恐ろしい……なっ?」

「えっ? えぇ! そうね」


 白雛と一時休戦&協定を結び、新たな危機に立ち向かう。

 今の第一目標は減点を受けないことである。そのためには、第三者に罪を押しつけるのが最も簡単な手段なのだ。実際この建物は『仕事』の都合上、報復行為を受けることがたまにある。


「……ここ九階ですよ。投げ込むのは無理だと思いますけど……。それにここに来るまでにセンサーと監視カメラを確認してきましたけど、外からの攻撃は発見できなかったんですよ。おっかしいなー? お二人ともなんでだと思いますか―?」


 ギクッゥゥゥゥ! と月波と白雛の肩が揺れる。

 姫桜は『仕事』では、情報収集・解析、そしてこの建物のセキュリティの管理をしている。その腕前はかなりのものであり、ほかから支援を頼まれることよくあるほどだ。

 そんな姫桜の言葉は疑問調であるが、二人は姫桜がほぼ完璧に自分たちの嘘を見破ったことに気付いた。


(やっぱ無理があったか!)


 しかしここまで来るとひきさがれないものである。


「ひ、姫桜のセキュリティを突破するとは、なんて恐ろしい襲撃犯なんだーーー!?」


 白々しく(自覚済み)体をわなわなとふるわせたりしてみる。


「「「…………………………………………………………」」」


 沈黙が部屋を支配した。なんというかすごくその場にいにくい、イヤーな空気である。

「…………」

「…………………」

「………………………華鍵(かかぎ)さんに連絡しないと」


 姫桜が携帯電話を取り出しながら、沈黙を破ると、



「はいスイマセンワタクシタチがやりました。だからどうか師匠には言わないでください」



 月波は一瞬で本当に一瞬で、土下座をして罪を認めた。

 白雛はいきなりの裏切りに怒りを覚える以前に驚いていた。それほどの変わり身である。

 それを見た姫桜は、まるで慈母のような優しい笑顔をつくった。

「冗談ですよ。私がお二人を華鍵さんに売ったりするわけないじゃないですか。さぁ、顔をあげてください」

 月波は、その言葉に深く感動して顔を上げた。今の月波には、姫桜の背中から後光が差しているようにまで見えた。

 が、



『な・る・ほ・ど・ねぇー』



 どこからか聞こえた声が、それらをすべて打ち消して、絶対の恐怖が月波と白雛を包み込んだ。

 その声は女性のものだった。そして今強く込められているその感情を取り除けば澄んだ声になるだろう、と予測できる声でもある。

 しかし月波たちにとって大事なのは、あくまで声の主である。


「し、ししょう!?」


 声のもとを探ると、それは



 姫桜の持つ、携帯電話のスピーカーから流れていた。



「えぇぇぇぇぇぇぇぇ! なにしてるの!? おもいっきり俺たちのこと師匠にばらしてるじゃん! 師匠に売ってるじゃん! 俺の感動を返せよ!」


 月波が姫桜にかみつく。隣では白雛が携帯からの声に絶句して固まっていた。

 それに対して小柄な少女は、


「いやー、売ったなんて人聞きの悪いこといわないでくださいよー。確かに『私からは』華鍵(かかぎ)さんに言わないとお話ししましたけど、『自白』したことについては知りません」


 ニッコニコの笑顔で切り捨てた。

 彼女が持つ携帯に表示されている通話時間を見てみるとゆうに五分を超えていた。

 つまり、月波の『ワタシタチがやりました』宣言もすべて電話先に伝わっていたということである。


(くろッ! こいつ黒ッ!)


 罠にかかった月波が姫桜の新たな一面に恐怖していると、


『つ・く・な・み、今からそこにいくから待っていろ』


 携帯からの追加攻撃により、恐怖が十割増しになった。


「し、ししょう。これには空よりも高く、海よりも深い理由がありまして……」

『ほぉー、そうか。じゃあ、その理由とやらをゆぅぅぅっくり聞かせてもらおうか。今『支部』の一階だから』


 その言葉とともにスピーカーからカンッ、カンッ、という音が流れ出てきた。コンクリートなのに金属のステップを叩くような音が特徴の、まさにこの建物の階段を登る音である。



 その音が死を告げるカウントダウンのように聞こえ、月波葬夜(つくなみそうや)は、本気でどうするか頭を抱えて考え出した。


 

 

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