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二章 『出会い』→『決意』(『虚偽』→『真実』) 5

 なつかしい、というよりそれに近い気配は一瞬でなりを潜め、手に届かないところまで隠れてしまって、さらに悪寒のような不気味さも一瞬混じっただけで今では影も形もない。

 というわけで、

 目の前には仮面を脱ぎ去り、ハイテンションな笑顔を現在進行形で向けてくる電波発信少女だけが残った。


「「「……………………」」」


 沈黙リーダがこの空間を支配する。少女は笑みを浮かべ、白雛は困惑の表情とも、苦笑いともとれる何とも微妙な顔つきで月波に視線を向け、そして月波はさっきまでの気配に思いを向けながらも、八割くらいをさきほどの自己紹介、より正確には一番意味不明……というより妄想の類としか思えない『役職』(自称)について考えていた。


「「「……………………」」」


 そんなこんなでものすごーーく居座りにくい空気が漂いまくってる状態が一分ほど続き、さすがになにか言わないとやばいんじゃね? と思い、口を開けかけた時、

 キーンコーンカーンコーン……。という全国の学校の中で最もポピュラーなチャイムが公園だけでなく、『特研区(とくけんく)』中に響き渡った。


「げっ!? もう一時半かよ! まだ飯も食ってないのにーー!」


 これをきっかけにと、とりあえずそんなことを言ってみたりするが、


「「……………………」」


「…………………………(反応なしですか)」


 かけらの反応も見せない少女二人に内心少しいじける月波。

 その時、そんな空気を察したのか、そしてそんな感じの心遣いくらいはあったのか、和砂(なぎさ)と名乗った少女が口を開く。


「ねぇ、ちょっといいかみゃ?」

「え? なにか御用?」


 この空気を変えてくれるなら何でもいいと思い、もうキャラがさらに訳わからなくなってる点については突っ込まないでおこうと心に厚く誓う月波は、少女改め和砂(なぎさ)を振り返る。


「どうでもいいことなんだけど、このチャイムってナニ? なんかこれからイベントでも起きんのかにゃい? 今日ってたしか『独立記念日』だし、なんかこうバーッ! っと派手なこととかないの?」


 かなり一般的な質問を意外に思ったが、会話を止めないためにもしっかりと答えようとする。


「まぁ、イベントは何かあるだろうけどこのチャイムは関係ねぇよ。このチャイムは『防衛(セキュリティ)』の午前の部と午後の部の交代の合図。……治安維持に祝日も『独立記念日』も関係ないからな。こんな日に当番になったやつは運が悪かったってだけで、今日の俺達には関係ない。ていうか宿題のせいで休みっていう実感もわかなかったわけですが……」

「結局投げ出して飛び出してきた奴のいうことではないわね」

「うっ! ……でもレポートは書いた、それでいいじゃないですか!」

「開き直りね」

「冷たっ! わたくしめは監視係をやらされているあなたのことを思いましてですね」

「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 唐突に会話兼小競り合いに割り込んでくる擬音……を発する和砂。


「(というか脳内オンリーで初対面の女の子の名前(名字?)を呼び捨てにしているけどいいのかこれ?)」


 あっちはきちんとさん付で呼んでくれているのに、なんかちょっと間違えているけど。と思う月波。まぁ年下っぽいしいいだろうと勝手に結論に至る。

 この世には姫桜のような微妙な例外が存在しているが、さすがに目の前の少女をいきなりそれに当てはめようとは思わない。

 今この瞬間にも分かりやすい擬音を口にしながらこちらをそのとおりに凝視している少女を一般的に扱ってもいいかを迷ったが、そもそも客(?)を相手にせずに白雛とばかり話し始めた自分が悪いのだ、と自分を納得させる。

 そして目の前の電波以外は普通にハイテンションなだけ少女に対して、結果的に軽く無視していたことの謝罪とさっきの電波(自己紹介)についての質問をしてみようと思い、向き合おうとしながら


「(でも、なんか百%ウソって感じもしないんだよな。あんな気配出されたら。……気のせいっていう可能性もあるけど、今日は四月八日だし(・・・・・・)そんな間違いはしないと思うんだけど)」


 その時、和砂がポンっ! と片方の手で拳にして、受け皿のように上に向けたもう片方の手のひらに振り下ろすというどこか昔を感じさせる動きをしながら、何故か疑問が解消した後のような納得した表情で、

 爆弾を落とした。


「痴話げんか?」


 ぶふぉー、という人生で一度使うかもわからない効果音付きで白雛がむせた。ゴホッゴホッ! とそのあとにせき込む。


「おーーーい。大丈夫ですかー?」

「ごほっ! うるさいわね。大丈夫に決まってるでしょ! ていうかアンタはなんで一切無反応なのよ!?」

「えぇー、それはですね」

「ハッ! まさかアンタ、脳内妄想で私相手に何かやってるんじゃないでしょうね」

「人の話聞けよ! そして人を勝手に変人に認定スンナっ!」

「じゃあ、なんでよ!」

「えぇー、それはですね…………(やべ、どうしよう)」


 実際は、師匠こと華鍵東亜(かかぎとうあ)と後輩こと姫桜今宵(ひめざくらこよい)とクラスメイト数名にこの一年同じようなネタでからかわれていたから、というわけなのだがそれをはっきり口に出すのがはばかれる。

 その時、


「まぁまぁみゃぁ」


 と和砂が仲裁に入った。もともとあなたが原因なんですけど、それとキャラはネコで統一するんですか?と聞きたかったがとりあえずその仲裁に感謝する。


「あみゃーー!! 私としたことが夫婦喧嘩の仲裁なんかしちゃったよー。夫婦喧嘩を喰うのは、犬でネコじゃないのにーーー!」


「感謝した一秒後にもうだまれぇぇぇええええ!!」

「そ、そうよ! そうよ! そうなのよ!!」

「いや、ちょっとテルも落ち着け」

「それに犬は夫婦喧嘩を喰わないって(ことわざ)に書いてあるから、ネコの方が食べる確率高いんじゃない?」

「いや、いや、だから冷静になれって。一応お前先輩だぞ。上級生だぞ。高校生だぞ」


 その言葉で冷静さを取り戻したのか、ハッ! とまどろみからふいに覚めた人のような表情になる白雛。それを再びちょっと遠巻きから見ていた和砂が問いかける。


「すいません。もうそろそろいいですかにゃい?」


 白雛の珍しいあわてた姿に心配していた月波だったが、その問いに反応して


「このやっと自分を取り戻した一人の少女が再び自分を見失わないようなことならいいぞ」


 と知り合ったばかりなのにすでにため口のもう一人のくぎを刺しておく。


「じゃあ、許可もらったっていうことで始めますにゃいよー」

「おぉ、いい――――――」


 あれって絶対素のキャラじゃねぇ―よな。などと考えながら放った軽い言葉は途中で歯切れも悪く途絶えた。

 なぜなら、


 和砂の体がぶれたと思った瞬間、背中から地面にたたきつけられ、体中の空気を吐き出させるような痛みが襲ったからだ。


 よく小説などで使われる視界が九十度回転して……というのも感じることができないような一瞬だった。

 もちろんそんな瞬間的に『減罪』を使用できるはずもなく、痛みは何の妨げもなくストレートに体に響き、それ以上何も起こさずに十秒ほどで消える。


 『不死(クリアラー)』には傷は残らない。痛みは残らない。

 

 それゆえにひるむ時間は少ない。

 なにが起きたかは全く把握できなかったが、臨戦態勢に切り替え、体を転がして距離を取ろうとする。

 しかしそれを一本の脚が月波の胸を踏みつけることで制する。仰向けのまま停止を余儀なくされた月波は襲撃者を見上げた。その視線と交換とでも言うように襲撃者からの声が下りる。


「わたしは、由緒正しき方法で許可を求めたから、これは不意打ちではなーい! とここに宣言するにゃー!」  


 その場所にいたのは、その声を落としてきたのは、和砂(なぎさ)=ウォークエンド。

 その顔には、さっきまでと変わらない笑顔。

 その声には、さっきまでと変わらない活気。


 そして、

 その雰囲気には、さっきまでとは違う気配が。

 その手には、さっきまでにはない凶器となる棍棒(メイス)が。


「じゃあ、始めちゃったし。最後までつぅぅぅぅっぱしろぉぉぉ」




 


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