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二章 『出会い』→『決意』(『虚偽』→『真実』) 4

…………はい?


 月波は、固まった。

 目の前で満面の笑みを見せているのは、さっきの少女である。月波の中学の制服を着ていたり、髪をまとめて三つ編みにしていたりするが、あれほどインパクトな登場をしたのだから記憶は一瞬で刷り込まれている。間違えてはいない……だろう。

 最後に自信を持てなかったのは、それならばなぜこの少女は自分に向かって笑いかけているのだろうかと疑問におもったからだ。仮にさっきの少女だったら『あんなこと』のあとに自分に近づいてくるわけがない。

 近づいてきたとしても、白雛照日(しろなてるひ)のようにお返しとして吹き飛ばそうとするか、小さな同僚の姫桜今宵(ひめざくらこよい)のようにそれをネタに脅迫してくるか(そこまでされたことはないが、今日の彼女を見たらそれくらい平気で行いそうだった。と月波は思った)、一般的な方法として痴漢として警察に引き渡そうとするかだろう。

 様々な女性からのトラウマ(主に白雛と華鍵(かかぎ)から)より寛大な精神で許してもらえる結論にかすりもしなかった月波は、その三つの中ではどれが一番苦痛が少ないかという変な考えにたどり着き、固まったままだった。


「あのー、大丈夫ですか?」


 そんな月波を見て少女は心配そうな表情に変わり、月波の顔を覗き込む。


「えっ? あぁ、大丈夫大丈夫。今のところ問題は一切ないから」


 あわてて返事をし、そのあとやっと落ち着きを取り戻した月波は少女を観察する。


「(あの服ってやっぱ俺たちの中学のだよな? 後輩か? それともテルのやつの制服か? あとの方が可能性としては大だと思うけど。なんつったってさっきまで変な手術着みたいだったし…………)」


 そのあとのハプニングを思い出しそうになり、あわてて思考を切り替える。


「(さっきまでは髪もおろしてたのに三つ編みになってるし、もしかして支部に戻ったのか? …………いや、あのキレた怒りで怒髪天になりそうだった師匠のところに帰るなんてありえないし……。 ていうか怒髪天ってこんな使い方でよかったか?)」


「…………あのー、やっぱり大丈夫じゃないんですか? あっ! すいません。これは返しますね。ありがとうございました」


 そういって少女は肩にかけていたブレザーを差し出してきた。


「あぁ、どうも」


 自分でもよくわからない返答と引き換えに差し出されたブレザーを受け取ってさりげなくポケットを確認する。携帯電話の硬い感触があり、一応安心するが入学式の前からほこりまみれの穴だらけになったブレザーを見て今夜までにどうやって修繕しようか本気で考える。ちなみに月波は裁縫が人並み以上にうまいと思っている。それ自体は自慢できるが、中学のころに今日のようなことをよく体験し、ぼろぼろになった制服を頻繁に直していたから、という理由は全く持って自慢にはならない。


「(むしろ泣きたいくらいだよ、っと。 ……それにしてもめちゃめちゃいい子だな。テルみたいに攻撃してこないし、姫桜みたいに黒そうじゃないし、師匠みたいに破壊神じゃないし、まさに普通に清楚な女の子。なんで俺の周りには恐怖心をあおる連中ばかりでこんな優しそうな子はいないのかね、ほんと。……それでさっきからテルの奴はなにやってるんだ?)」


 いつの間にか目の前にいた白雛は少女の三歩くらい後ろで何か手をバタバタさせていた。あいにく月波には素人ジェスチャーを読み取る力も才能もないが、目の前の少女を指差してから手を交差させてバッテンをつくっている動きがたびたび出てくるのがすごく気になる。少女は背中を向けているので気づいてはいないようだが、


「?」

「?」


 頭に?マーク浮かべて自分を通り過ぎた視線を向けている月波につられたのか、少女が後ろを向こうとした。すると、ピタッ、っと一瞬で動きが止まり、そのままこっちに向かってきた。少女のすぐ横を通りすぎずに、少し大きな円を描いていたのは気のせいだろうか。

 そのまますぐ横まで来た白雛は指を一本チョイチョイと動かす。耳を貸せ、という意味だと受け取った月波が顔を近づけると、


「いろんな意味で手に負えないからどうにかして」


 と小さな声でささやかれた。


「? どういう意味だよ? お前と違ってめちゃめちゃいい子じゃねぇか」

「……あとでどういう意味かみっちりと教えてもらうけど……、とにかく『自己紹介してもらえる?』っていってみてよ。たぶん全部わか――――」


「もういいよ。しろ()なてるひさん」


 月波たちの小さな声の細々とした会話は(くだん)の少女によって中断させられた。


「……お前名前間違えて教えたのか? なんか『ひ』が多いぞ? なつかしいなぁ。お前初めて会った奴には絶対そう間違えられてたし」

「……てないのよ」

「?」


 再開した小さな会話よりさらに小さい声を月波は聞き取れなかった。


「?」


「だから、…………教えてないの(・・・・・・)


「へ? つまりどういうこと?」


 ゾクリとするような気配を月波は感じた。それはとても小さな気配だったが、確かに目の前の小さな少女から流れ出ていて、



「もういいよ。つ()なみそうやさん」



 その少女はまた少し間違った、漢字をそのまま読んだ月波葬夜(つくなみそうや)の名前を呼んで、また気配は少し大きくなって、その気配についてあることに気づきかける。

 少女は今までの仮面を脱ぎ棄てながら、


「はっじめまして! つきなみさん。それともヤッホー、がいいかな!? それではしろひなさんの希望通りにまずは自己紹介からはっじめましょうかー!」


 月波の抱いた普通で清楚なイメージをぶち壊すハイテンションな声を満面の笑み付きで響かせる。


「まずは、当然のように名前から」


 しかし、月波にはそれはどうでもいいことになっていて


「私の名前は『和砂(なぎさ)=ウォークエンド』ってゆうのです」


 ハイテンションな声は叫び続けるが、月波は珍しい名前だな、としか思わない。


「役職としては……」


 少女はここで言葉を一旦区切り、


「元『特異防衛イレギュラーセキュリティ』統括、『零分の壱番隊』所属。現在は不本意ながら『BFG』、『キューブ』内『パーツ』№二一、担当」


 少女は驚く月波に、執事のようにきれいなお辞儀をして、薄く笑った顔だけ上げながら最後に一言だけをつぶやくようにしかし何故か耳に入っていくような声で


「以後お見知りおきを」


 と完璧すぎる言葉を口にして、完璧すぎるゆえにつかみかけていた気配はするりと手の間を抜けて隠れてしまう。

 

 つかめそうでつかめないもどかしさを感じながら、しかし月波はなぜかそれを懐かしく感じた。


 

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