二章 外 夢の中で
あか、アカ、赤、アカ、あか
四月八日午後一時十分二十六秒、『夢』が始まる。
――あぁ、この夢か……
周りは赤がうごめくことなくその床を、その壁を、そしてそこに転がる『もの』をどこまでも赤く塗りつぶす。
――嫌だなぁ、なんでこんなものを毎日毎日毎日毎日見るんだろう……
赤の闇の中から、肌色の、まだ赤に染まっていない床に転がっているのと同じ『もの』が何個も何個も何個も何個も飛び出してきたと思うと、また『赤』を噴き出し周りの『赤』をさらに濃く変える。
――なにが悪いんだろう……。やっぱり『独立記念日』が、四月八日がこの日が悪いだよなぁ……
その濃くなった赤の闇の中から、『黒』があらわれる。
それは、黒い髪を、黒い瞳をもっていた。
それは、日本人だった。
それは、この場で唯一赤くなかった。
それは、この場で唯一白いままの服を着ていた。
それは、同じ年頃の少年に見えた。
そして、俺は唯一それと目があった。
――あぁ、それはとってもとってもとっても澄んだ目だったなぁ
――まるで『今』の俺と同じように
すべては三年前の今日、この日、この時間、午後一時十二分三八秒に始まり。
たった十分で終わった。
終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった。
――だから俺は目を閉じる。
――もうこの夢は終わったのだから……
――もう見る必要なんてないんだから……
――だから夢だとわかっていて目を閉じる。
そして四月八日午後一時十五分四十九秒『夢』は終わった。