宇宙誕生
宇宙誕生
宇宙誕生
「カウントダウンを始めるわ、ハルト! 3、2、1……ビッグバン(大爆発)!」
ソラの叫びと同時に、極小の「点」だった宇宙が凄まじい大爆発を起こした
光と熱の嵐が猛烈な勢いで四方八方に飛び散る。ハルトは観測船『ステラ・パトロール号』の全シールドを展開し、眼鏡のブリッジを押し上げながら叫んだ
「すさまじいエネルギーだ! 宇宙の歴史が今、始まったぞ!」
爆発の直後、誕生したばかりの宇宙空間には、目に見える普通の物質と、正体不明の謎の物質「ダークマター」が溢れ出した。その比率は、綺麗にちょうど5対5の真っ二つ。互いに同じだけの質量を持ちながら、反発し、引き合い、宇宙の勢力を二分していた
「見て、ハルトくん! 物質たちがものすごい勢いでぶつかり合っているわ!」
ソラが指さしたモニターの中では、同じ質量を持った原始の粒子たちが、激しく火花を散らして衝突を繰り返していた
それは気の遠くなるような確率のゲームだった
同じ物質同士が100億回もの衝突を重ねるたびに、エネルギーの性質がわずかに変化し、水素やヘリウムといった「段々と違う物質」へと進化を遂げていくのだ
100億回目でようやく新しい物質の種が生まれ、それがまた100億回衝突して、次の物質へと繋がっていく
「気が遠くなるような回数ね……でも、この衝突のおかげで、私たちの身体を作る星の材料が生まれているんだわ!」
しかし、激しい爆発と衝突の宴は、永遠には続かなかった
生まれたての宇宙がものすごいスピードで外側へと膨張するにつれ、熱源が分散し、空間全体がみるみるうちに冷えていく
「ハルト、宇宙の温度が急激に下がっているわ! 熱が逃げていく!」
「空間が広がりすぎているんだ。冷えていく宇宙の中で、粒子たちの衝突のテンポが落ちていくぞ!」
灼熱だった世界は、静寂の極寒へと向かい始めていた
だが、完全に凍りつく前に、冷えていく宇宙の中でダークマターの重力の罠が働いた
5対5のバランスを保ったまま、ダークマターが集まる場所に、100億回の衝突を生き抜いた新しい物質たちが引き寄せられていく
冷えゆく闇の中で、集まった物質たちがついに最初の光を灯した。原始の星の誕生だ
「大爆発から始まって、冷えて、混ざり合って……そうして今の太陽系や地球へと繋がっていったのね」
ソラが感動に目を潤ませながら、ハルトの手をぎゅっと包み込んだ
「ああ、僕たちのルーツはこの激しい爆発と、100億回の奇跡の中にあるんだ」
ハルトは静かに冷えていく窓外の深宇宙を見つめ、人類の始まりの物語に深く思いを馳せた
「ハルト、前方のダークマター領域から異常なエネルギー波形よ! センサーの針が振り切れてる!」
冷えゆく宇宙の暗闇を進む探査船のコックピットで、ソラが鋭い声を上げた
ハルトは操縦桿を握り直し、眼鏡のブリッジをクイッと押し上げる
「ビッグバンの大爆発から始まった、あの『100億回の衝突』の果てか……。何かがそこで生まれている!」
モニターに映し出されたのは、5対5の割合でせめぎ合う通常物質とダークマターの境界線
空間が急激に冷えていく中で、その激しい摩擦の特異点から、七色に明滅する結晶体が姿を現した
「あれは……原始の粒子が100億回ぶつかり、さらにそれが100億回ぶつかって精製された『未知の物質』だ!」
その瞬間、空間が大きく歪んだ
未知の物質が放つ強大な重力波が探査船を捉え、船体が激しく揺れる
「キャッ! 重力異常よ! 船のシステムが引っ張られているわ!」
「くそっ、このままだとダークマターの底に引きずり込まれるぞ!」
ハルトはスラスターを逆噴射させたが、冷えゆく宇宙の引力は容赦ない
周囲の小惑星の残骸が、未知の物質に向かって次々と吸い込まれ、衝突の火花を散らしている
「ソラちゃん、あの結晶のエネルギー特性を解析してくれ! 反物質パルスをぶつければ、この重力の鎖を断ち切れるかもしれない!」
「了解よ!」
ソラは手際よくコンソールを叩き、全問大正解のタイミングで船のビーム砲をチャージした
「ハルト、今よ! 放てっ!」
ズドォォォン!
探査船から放たれた眩い光条が、未知の物質のコアに直撃した
次の瞬間、臨界点を迎えた結晶体がまばゆい大爆発を起こした
エネルギーの衝撃波が船体を前方へと強く弾き出す
ハルトはその推進力を利用して操縦桿をいっぱいに引き、見事なハンドル捌きで重力の罠から脱出した
「やったわ! 脱出成功よ!」
ソラが歓声を上げ、開いた窓の外を見た
爆発のチリが収まった空間には、エネルギーが安定し、優しく青く輝く小さな結晶の欠片が一つだけ浮遊していた
探査船のマジックハンドが、それを静かに回収する
「これが、100億回の奇跡が生んだ未知の物質……」
手元に収まったその輝きは、まるで冷えゆく宇宙の中で、新しく灯った未来の命の火のようだった
ソラがひまわりのように微笑み、ハルトの手をぎゅっと包み込んだ
「これがあれば、私たちの世界はもっと新しく変わるかもしれないわね」
「ああ、僕たちの冒険は、この宇宙の歴史の続きを創っていくんだ」
二人は輝く結晶を胸に、次なる未知の天体へと向かって、再び探査船を加速させた
乙
宇宙誕生




