たどり着いた地上と謎まみれ男
落ちていく、落ちていく、その空間に重力や風を感じず、ふわふわとした感覚だけが残った。
自然と恐怖感はなく、まるで時を刻むかの様な安定感に囲まれて私はタッと地面にたどり着いた。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
高いところから落ちて来た筈なのに、痛みを感じなければ痒さも感じないものだから、自分の落ちて来た上を見てみると、綺麗な星達や月が群青色の空に輝いていた。
何時の間に夜になったのだ、と視線を定位置に戻し、周りを見渡す。
目の前には綺麗にライトアップされた巨大な城があり、周りには色々な形をした扉や可愛らしい動物像やぎょっとする色合いの花、プリズムで光った水が噴き出る噴水もあった。
巨大な城に目を移すと、そこは西洋のファンタジー小説に出てきそうな装飾が施された外壁に、綺麗に掃除されている窓からは中に人が居るのを確認できる。
シャァーー、と噴水の水が高く上がる。音につられ噴水を見ると空高くあがった噴水はとても綺麗で、キラキラと光り見ている者を不思議な感覚にさせる。
だが、何時までもそんな感傷に浸っている場合ではない。
「何処だここ。」
我ながら冷静なツッコミを入れると同時に、後ろの茂みからガサガサと不気味な音が聞こえた。
「!?」
ビクッとしながらも反射的に後ろを振り向く。
何も無い兼居ない。
ホッとしながら視線を戻そうとした。が、しかし。
いつの間にか後ろに人の気配を感じ、バッと元の位置に視線を戻すとそこには黒いフード付きのマントをした男が立っていた。
はい出ました、事の発端。
「ひっ!!!」
すらっと伸びた謎の生物の顔は真っ黒なフードによって鼻から下しか見えない。片手に分厚い本を持っていた。
そして、謎の生物の肩らしき所にちょこんと座っていた、青い目をしたマヌケな人形と目が合ってしまった。
その怪しすぎる姿形に顔を引きつらせると、相手の人間はフードを取りながらケラケラ笑った。
「変な顔、驚いた?これ俺の人形なんだ。名前はルーシィ。こいつと目を合わせると、目を合わせた人間の個人情報を盗んでくれる有能な俺の腰巾着。君、新入生か、ふうん。」
「な、何よいきなり!あんた誰?ていうか、ここ何処!?新入生って?」
「まぁ、ここで会ったのもなんかの縁。ほら来なよ、面倒だけど学院を案内してやる。」
「ん?」
「あぁ、俺の名前はレオ。よろしくね、霖ちゃん♪」
話の展開が速すぎてよく解らなくなっていた私は、とりあえず思った事を口走った。
「ごめん、意味深長。」
「は?何かおかしい事でもあるのかい?」
「おかしい事だらけじゃボケ。」
「まぁついてきな。俺がちゃんと教えてやる。」
『キャンベリー魔法学院』
歴史ある魔法学校の1つで、世界中から色々な人が集うが皆が皆行ける学校では無く、限られ選ばれた者だけが通う事の出来る学院。
それが、魔法都市第7区域(エリア7)に大きくそびえ立つキャンベリー魔法学院。
魔法都市とは第1区域(エリア1)から第10区域(エリア10)まである、魔法が物凄く発展した町で、多くの魔法使いや魔術師、錬金術師などがここに集結している。
毎年学院に入る事が出来る人を、魔法省によって決められ、その1人1人にここの世界に来るショックを与える。
『転ぶ』『落ちる』『倒れる』などなんかしらのショックが無ければ来られないらしく、私が窃盗猫(一番の原因)を発見しグレープフルーツが転がり自転車がなぎ倒れお巡りさんに追いかけられる事を、全て仕組まれていた事になる。
全く本当に・・・なんて言うかちょっと黙れ。
魔法都市には、魔法使いや魔術師だけでなく超能力者や呪術師、なんの力も持っていない普通の人間も中には居るという。
キャンベリー魔法学院は完全全寮制で、真ん中にある授業を行う棟を『B棟』と呼び、そのB棟を囲むように立っている5つの棟が寮になる。
クラスは5つあり、そのクラスごとの寮棟になる。
「クラスはそれぞれ、『ゴールドバーグ』『ハンプシャー』『オルムステッド』『サリンジャー』『レインウォータ』、この5つから成る。」
大量の情報を聞きながら、レオの後についてキャンベリー魔法学院へ入って行く。
「レオは何処のクラスなの?」
「俺はゴールドバーグの3年だ。クラスには5つ全てに標語が有る。
『素早い行動で火花の様に天を翔ける電光石化・ゴールドバーグ』
『治癒防御の立派な心構えを持つ気宇壮大・ハンプシャー』
『常に攻撃の核となり猛烈な威力を持つ獅子奮迅・オルムステッド』
『ありのままの心を出し勇気と希望を与える天真爛漫・サリンジャー』
『自分の思うがままに突き進む直情径行・レインウォータ』
それぞれその素質があるクラスに組み分けされるんだ。」
「へぇ、なんかかっこいい。でもさ、私魔法なんか使えないんだけど。」
かっこいいとは思ったものの、何故私がここにいなければならないのか?という疑問を解決すべく、至極最もな質問を投げかけてみたが、
「これから勉強するんだから当たり前だろ。」
「ん、だから、私はここに入学する訳じゃないでしょ?大体貴方怪しい。」
白けた顔でそう告げるとレオはサラサラの赤毛を揺らしながら、ケラケラと笑いやがった。
「確かに怪しいけどさ。」
自覚あるんだ。
「俺嘘は絶対に言わない主義なんだよねー。こういう事に関しては。」
最後の言葉にずっこける。
「それにさ、君もう名簿に登録されてるから。じゃなきゃこの世界に来れないから、っていうかまずここから帰るにはこの学院卒業しないと帰れないから。」
あっさり言われさっきと同じ様にカラカラと乾いた笑い声を出すレオに、僅かばかりの殺意が芽生える。
「勝手な事ばかりしてんじゃねぇーぞコノヤロー!お?じゃぁ、あれか?このヘンテコ学院に行ってインチキ占い習って卒業するまで返さないってか?お?
じょぉーだんじゃぁない!!おいレオって奴、歯ァ食いしばれ、私がこの悪趣味宗教1から叩き直してやる。」
それから暫く悲鳴と断末魔が絶えなかった。