夜の密会
「おい!霖起きろ!」
ぺちぺちと頬を叩かれ目を覚ます。いつの間にか寝ていた様だ。
むっくり上半身をお越し、部屋を見渡す。
居るはずのない人を見つけてしまい、完全に脳が覚醒する。
「神楽さん、暁さん。……何で私の部屋に?」
向かって左には行儀良く座り肉まんを頬張った暁さんが居、右にはスカートにも関わらず胡坐をかき、鋭い眼光を向ける神楽さんが居た。
「神楽が可愛い後輩の為に力を貸したいってね。」
暁さんがニッコリと笑う。
何だかひどく安心する笑顔だ。 それに対し、神楽さんはこれまた大変凶器的な目を暁に向けた。
「そんなんじゃない!暁、貴様は一言多いんだ!」
クスクス笑う暁さんと言い訳をする神楽さんを尻目に、レオが口を挟む。
「俺が呼んだんだ。二人共心強い味方だから安心しろ。」
口喧嘩を終えたらしい神楽さんが腕を組ながら私を見据える。
「それで、何があった。」
私は今日の出来事をなるべく細かく説明した。
話し終わるまで静かに話を聞いていた神楽さんと暁さんは、一度顔を見合わせてから口を開く。
「霖、恐らく君に草を摂ってきて欲しいと頼んだディータは偽物だ。」
え?
「モヒカン草はそう簡単にはとれないからね。自然が多い第9区域の奥の方まで行かないと採れない草。」
実際に在るのかモヒカン草。
「第9区域に霖をおびき寄せる罠だな。」
「でもディータ先生が偽物って、そんな事どうやってするんですか?」
きょとんとする私に暁さんがニッコリ微笑む。
本当にいい笑顔だ。
「変装術って言ってね。服装や髪型ならまだしも、顔を変えるとなると相当な魔力とモヒカン草が必要なんだ。」
そんなものに使うのかモヒカン草。
「………でもどうしてそんな事までして私を森に?」
私の問いは虚しく部屋に響いた。神楽さんも暁さんもレオも難しい顔をして考え込んでいる。
すると今まで私の横で眠っていたカラスのサンダーがモソモソと動きだした。
「どうしたのサンダー?」
「何かが…。」
「え?何?」
私とサンダーの会話にレオ達が顔を上げる。
「お嬢、何か、何かがこっちに近づいてくるでやんす。」
「何かって?」
サンダーのひ弱だが真剣な声に、私達は顔を見合わせた。
「ったく、次から次へと何なんだ!」
レオは立ち上がると窓辺に立ち、空を見上げる。
レオの次から次と言う言葉に私も頭に浮かんで来る事がある。
この世界に来たのはともかく、楽器庫で見た母親の名前、魔法省の役員と何か後ろめたい事しているエルモ先生、母親の名前を知っていて私に空の力があると言った予言術教師、そして今日の出来事………。
この短期間で起こった事が多すぎる。
「一体、この学院で何が起こっているの?」
「暁!霖を頼んだぞ!」
「解ったよ。任せて。」
神楽さんの言葉にしっかり頷く暁。
「よっし、じゃぁ行きますか。神楽ちゃん。」
「あぁ、頼むぞ。3年ゴールドバーグクラス首席レオ・クレネル君。」
え?首席?
神楽さんはレオの手をしっかり掴むと力強く地を蹴った。
その瞬間二人が消えてしまった。
「レオは私達3年生の中でも有能な魔法使いなんだ。勿論神楽もね。」
知らなかった。
「そうなんですか。神楽さんはともかく、レオが首席なんて。」
私の言葉に暁は柔らかく笑った。
「さて、今からは何が起こるか解らない。いざとなったら全力で守るよ。」
暁が立ち上がりながら私を見下ろす。
「ありがとうございます!」
まだこの世界の事も解らない、魔法も全然使えない私にとって、凄く頼りになる。
私達は空を見上げた。