マヌケなカラスと頼もしいテレポーター
かーかー!
バサリ……
刺されると思って瞑った目を、妙な浮遊感を感じ少しずつ開ける。
足下には森が見える。
周りは日が沈みかかった夜空が見える。
私は飛んでいた。
「大丈夫でやんすか?お嬢。」
そう、さっきのマヌケなカラスが私の身体をたった一匹で持ち上げ飛んでいた。
「あなた私を助けてくれたの?」「これくらい大した事ないっすよかーかー。」
「あ、ありがとう。」
マヌケなんて言ってごめんなさい。
「で、でもあっし、そ、そろそろ、無理でやんす。」
「え?……ひゃっ!」
さすがに人間を一匹で支えるのは難しいだろう。
けれどこのままじゃ、普通に落ちる。
「ひゃーーー!!!」
ドサドサ!
「うびょ!」
「うっ!」
「かっ!」
落ちた拍子に三つの声が重なった。
………ん?三つ?
「レオ!?」
「かー?」
「あ、痛。」
私の下には黒く伸びた物体。頭らしき赤毛が見えた。
そして私の頭の上にはカラス。
何かのコントみたいだ。
て、言ってる場合じゃない。
「レオ!助けて!何か私刃物で襲われたの!」
「は!?」
レオは私の頬の傷を見て目を見開く。
「顔は見たか?」
「ううん、見えないの。なんか、靄みたいのがかかってる様で…」
ぎゅっとレオのローブを握る。
「それでこのカラスに助けてもらって………」
「とりあえず、学院に戻ろう。話はそれからだ。」
「うん。」
レオがどこからともなく箒を出しまたがる。私はレオの背中に捕まり、学院への空を飛んだ。
カラスは私の腕の中で目を閉じた。
***
私は一旦自分の部屋に入った。 レオがちょっと待ってろと言うので、私とカラスはおとなしく待っている。
「いやー、さっきは悪かったでやんすね。」
「ううん、貴方が助けてくれなかったら私、今頃どうなってたか。」
考えただけでも寒気がする。
「ねぇ、貴方名前は?」
「あっしに名前はないでやんすよ。しがないカラスでやんすから。」
「そう。…じゃぁ私が付けてあげる。」
「と、とんでもないでやんすよ!そ、そりゃ、あっし……」
「いいの!あのね、サンダーってどう?なんとなく似合ってると思うんだけど…」
カラスの目が光る。
「かっこいいでやんす!あっし感激っす!」
カラスのサンダーは一瞬目を涙ぐませ、羽をパタパタさせながら喜んだ。
***
「レオ、夕食はいいのかい?」
「あぁ、部屋で食う。」
俺は自分の分の食料と霖の分を大量にトレイに乗せ、霖の部屋に向かう。
勿論、生徒指導員に見つからない様に。
しかし、と俺は考えた。
何故いきなり刃物で?
魔法都市第9区域は、魔法都市の中でも特に自然は豊かだ。
森や植物の影に何が潜んでいるかは解らない。
だが、それを見破れないほど、魔法都市治安維持部隊は野暮ではない。
そんな場所で何故?
それ以前に、何故霖は第9区域に足を踏み入れたんだ?
誰かに仕組まれたか………。
それとも只の考えすぎか。
だが、霖が襲われたのは確かだ。只の考えすぎではない。
ぐるぐると思考を巡らせていると、霖の部屋の前までたどり着いた。
周りに人が居ないか確認をして、そっとドアノブに手をかける。
「ほぅ、女子寮に侵入とは、貴様、趣味が悪くなったな。」
いやはや、流石というか何というか。
「神楽ちゃん………」
正直、今一番会いたくない人だった。
「神楽ちゃん、その一振りしただけでそりゃぁもう墓場へ直行的オーラを醸し出しまくってる物騒以外の何者でもない金属性トンファーを下ろして。」
もしかしたら力になってくれるかもしれない。
だがそれには………
「ふん、相変わらず遠回しな言い方だな。私に何か協力してもらいたいんだろう。言ってみろ。」
本当に流石だ。
アルでさえ読めるか読めないかの俺の心が読めるのだ。
彼女の心は武士道と言うべきが、仁義心と言うか、日本特有の強い信を持っている。
だからこそ、信頼できる。
「ああ、大切な話なんだ。霖の部屋で話す事になっててね。」
「待っていろ。暁を呼んで来る。冷静な判断力が必要なら、奴は絶対必須だ。」
神楽は漆黒の瞳をレオに向ける。
やはり凄い瞳だ。
これほど真っ直ぐな瞳を持つ人はそう居ない。
「あぁ、待ってる。」
神楽は瞳同様漆黒の長い髪を揺らしながら地を蹴った。瞬間神楽はその場から姿を消した。
「そういや神楽ちゃん瞬間移動者だもんな。」
そう思いながら扉を開け部屋に入った。
ベッドで眠りこけている人間とカラス。
「寝てやがる。」
はい、こんにちは♪
魔法都市の説明文を次回か、その次くらいに更新します!