森の中での刺客
「僕、『音』だって!嬉しいなぁ!音楽っていいよね、うんうん。」
一人で喋り自分で納得するコニーに対し、ジェシカは自分のカードコレクションを私に見せてくれた。
「わぁ凄い。これ全部ジェシカ一人で集めたの?」
私の手にはおよそ数百枚にも及ぶカードの束。
「そうよ!特にこのカードはレアで、世界にたった21枚しかないの!」
そう言ったジェシカが取り出したのは、5枚のタロットカードの様なカードだった。
「5枚も持ってるのね!」
「そうなの!どれも魔法では凄い力を見せるのよ!」
パラパラとカードを回しながらジェシカは嬉しそうに笑った。
***
授業が終わり、私は魔法薬品学のディータ先生からレポートを持って来るよう言われたので、私はB棟最上階にある職員室に向かった。
ディータ先生の部屋は薬品独特の臭いがし、あまり長時間居たくなかった。
が、
「悪いが楠木さん学院外にあるあの森の中から『モヒカン草』を採ってきて下さいな。んじゃ宜しく。」
「え?は?ちょっと待っ………」
行ってしまった。
ディータ先生が窓から見える森を差し、一枚のその『モヒカン草』って草の絵が描いてあるメモを寄越した。
ってか何だモヒカン草って。
何か押しつけられた気がするが、このまますっぽかす訳にはいかない。=モヒカン草を探しに行こう。
***
「レオ、何してんだ?」
「ん?アルか。」
「お前、占術苦手だよな?」
「あぁ何も出来ない。」
レオの手には水晶玉があった。
レオが図書委員を努める図書館に来たアルは、水晶玉片手に遠い目をしているレオを見てぎょっとした。
「何か雨…降りそうだな。」
レオがまた遠い目をしながら窓の外を見て呟く。
アルは、はっと思い出した。
「そういえばさっきここに来る途中で、楠木さんが第9区域(エリア9)の方に歩いて行くのを見たぞ。」
アルが天文学の棚に手を伸ばしながら言った。
「第9区域?………何で霖が?」
「さぁ?………レオ?」
「俺も行く。」
「あぁ、行ってらっしゃい。」
レオの後ろ姿と、レオが机に置いていった水晶玉を交互に見たアルはニヤリと笑った。
「これはこれはもしかしたら………恋かな?」
***
「んーもう!モヒカン草なんて何処にも無いじゃない!」
何考えてんだ、あの老いぼれ教師。
もう日は暮れかけていて、森の中だけあって何だか不気味だ。 ぎゃーぎゃーとカラスが飛び交う。ふと上を見る。
「かーかー!」
ん、おかしいな。何か見えてしまった。
目をこすってもう一度見てみよう。
「かーかー。」
「・・・・・・・」
やっぱりいる。
不気味なカラス達に交じって、何だかもの凄くマヌケなカラスが私を見下ろしていた。
大事なことなのでもう一度。
もの凄くマヌケなの、そのカラス。
「怪我でもしてるの?」
「まさか、あっしはそんなにマヌケじゃぁないっすよ。」
いやツッコミ所がありすぎる。
いやはや、厄介事はごめん。
老いぼれ教師には悪いが、………帰ろう。
そう思い踵を返す。
その瞬間シュッと何かが頬をかすめた。
頬から血が垂れる。
その何かが鋭利な刃物だと解ったのは、後ろに倒れた後だった。
もう一度刃物を振り下ろされる。
バサバサっとカラス達が飛び立った。