『最もぶん殴りたい生徒』一位のわたしは、王子をボコボコにした責任を取らされるようです
わたしトーニャ・ハモンドは王立アカデミーの三冠女王と言われている。
まず、『最も優秀だと思う生徒』ランキング一位。
当然だと思う。
定期考査で一位を譲ったことがないし、女子剣術大会の優勝者だし、魔法が得意ということも結構知られているから。
次に『男子生徒が選ぶ最も美人だと思う生徒』ランキング一位。
これはどうだろう?
わたしは姿勢や振る舞いには常に気をつけているが、童顔だから美人というタイプではないんじゃないかな?
俯瞰的に見てだけど。
美人に見えるならそれはわたしのメイクに精魂傾けている侍女の手柄。
最後に『最もぶん殴りたい生徒』ランキング一位。
騎士の子というアカデミー生における底辺にも拘らず、この度オズウェル第一王子の婚約者になったからね。
女子生徒のヘイトを満遍なく集めております。
わたしは王立アカデミーで悪い意味の有名人になった。
もっともわたしは強いので、ぶん殴るなんてムリだけどね。
何が迷惑って、オズウェル殿下の婚約者に指名されたことだ。
どうして?
素直にグウェンドリン・ロッドフォード公爵令嬢みたいな高位貴族の令嬢を選べばいいでしょ。
殿下の婚約者にピッタリだと思う。
あるいは個人的な実力、希少性という面なら、聖女ムム様だって相応しい。
優秀者のわたしがそう考えるんだから間違いないのに。
「聖女様、どう思います?」
王立アカデミー生にとって慈善や奉仕は義務みたいなもの。
わたしの魔法力は結構なものなので、時々聖女様や癒し手に混じって回復魔法の無償奉仕を行っている。
婚約のせいで評判の悪くなったわたしではあるが、スッピンだとバレなくて都合がいいのだ。
もっとも今日は教会の慈善バザーに参加しているため、割と聖女様と話している時間がある。
聖女ムム様はすごい人だ。
平民出でありながら聖女の加護を持つ世界唯一の人物として知られ、莫大な魔力量で各種魔法を使いこなす。
物事をあまり気にしない明るい性格で、わたしを含めて信奉者は多い。
「三冠女王か。そこだけ聞くと格好いいねえ」
「冗談事じゃないのですよ」
「んー? トーニャちゃん知ってるかもしれんけど、あたしもオズウェル殿下の婚約者候補だったらしいんだよ」
「存じております」
「平民で礼儀もなっとらんあたしよりも、トーニャちゃんのほうが王妃に向いてるくらいのことはわかる」
「でも聖女様には圧倒的な魔法の力があるではありませんか」
「いや、トーニャちゃんだって大したもん。魔法ならあたしの半分くらいの実力がある」
半分もあるわけないじゃない。
聖女様の持ち魔力量や魔法力はべらぼうだからね?
世界唯一の聖女は伊達ではないのだ。
「……誰か婚約者代わってくれないかしら」
「トーニャちゃんはオズウェル殿下のこと嫌いなん?」
「……好きです」
婚約自体に戸惑いはあるし、実際に現在のわたしは総スカン状態なので迷惑を被ってはいる。
でもオズウェル殿下は素敵だわ。
第一王子なんて誰よりも努力しているし、厳しい目に晒されているのに、全くそういうところを見せない。
すごいなあと素直に思う。
おまけに顔も格好もいいし案外気さくだし。
惚れてまうやろ。
「婚約後も殿下はふつーに接してくるんでしょ?」
「ビックリするくらい普通ですね」
「オズウェル殿下はやるなあ」
頷かざるを得ない。
確かにオズウェル殿下はできる王子。
こんなに身分差がないのであれば、わたしは多分ガムシャラに殿下の婚約者を目指しただろうし、婚約者になれて大喜びしたと思う。
「まートーニャちゃんが婚約者になったことに関しては、殿下の意思もあったんじゃないの? トーニャちゃん可愛いし」
「……」
教会関係の行事にはスッピンで参加してるから、可愛いって言われることが多い。
何だか恥ずかしい。
アカデミーではメイクで違う顔だから。
「もっと素直に喜べばいいと思うよ。どーせ王命で断れない婚約なんだから」
「断れない……そうですね」
「そうそう……行ったな」
「えっ? 何がです?」
「トーニャちゃん気付いてなかったか。そこの柱の陰にグウェンドリンちゃんがいて、盗み聞きしてたの」
「えっ?」
グウェンドリン・ロッドフォード公爵令嬢が?
わたしがいなかったらおそらくオズウェル殿下の婚約者候補最有力だった令嬢だ。
慈善バザーならグウェンドリン様が参加してることは当然あり得た。
会話の内容からわたしがトーニャ・ハモンドだってことはバレたな。
わたしの素顔も知られてしまったか。
迂闊だった。
「聖女様は感知魔法でわかったのですか?」
聖女様は四六時中感知魔法を張り巡らせ、周囲の状況を把握しているという。
普通はそんなことして魔力持たないからね?
事故や事件に備えて魔力を温存しておくべきだろうに、持ち魔力量が莫大だから全くそんな必要がないということだ。
聖女様の魔法を誰もマネできない所以。
「うん。でもこれで状況は変わるんじゃないかな」
グウェンドリン様がわたしの現状を知ったから?
というか聖女様は話を聞かせてたのだろうな。
カンのいい聖女様が状況が変わると見ているなら……。
「助かります」
「いやいや、あたしは国から予算が出てる聖女だからね。将来の王妃が困ってりゃ力になるよ」
ニコッと笑った聖女様は魅力的だ。
聖女様は同い年なのだけれど、手本になる方だなあ。
わたしもより一層励まねば。
――――――――――グウェンドリン・ロッドフォード公爵令嬢視点。
トーニャ・ハモンドとは何者なのですか。
成績がいいことは認めます。
美貌も……ええ、認めますとも。
硬質のルックスと高めの身長が相まって大変に美しいですわ。
美しいものを美しいと認めないほど、わたくしわからず屋ではありませんわ。
でもオズウェル殿下の婚約者というのは違うのではなくて?
王とは貴族勢力の長ですよ?
力の均衡というものを考慮しなければならないではありませんか。
それなのに一騎士の娘ごときと婚約とは、何なのでしょう。
オズウェル殿下を誑かしたのでしょうか?
王家もだらしないではありませんか。
まあいいです。
批判が大きくなれば王家もゴリ押しはできないでしょうし。
今日は教会の慈善バザーに精を出しましょう。
「聖女様、どう思います?」
あら、聖女ムム様ではありませんか。
ムム様もオズウェル殿下の婚約者候補だったと聞きます。
きっとムム様もトーニャ・ハモンドが婚約者になったことに関しては文句があると思うのですの。
少々はしたないですけれど、こっそり聞き耳を立てます。
「三冠女王か。そこだけ聞くと格好いいねえ」
「冗談事じゃないのですよ」
「んー? トーニャちゃん知ってるかもしれんけど、あたしもオズウェル殿下の婚約者候補だったらしいんだよ」
ちょうど殿下の婚約についての話題になりましたって、えっ、トーニャちゃん?
トーニャ・ハモンド?
あっ、顔が全然違いますけれど、あの身長と所作の美しさは間違いなくトーニャ・ハモンドです。
化粧を落とすと可憐ではないですか。
ますますズルいです。
しかしあの人は時々見ますね。
修道女かと思っていたら、トーニャ・ハモンドだったとは。
慈善事業にしょっちゅう参加するとは、見上げた心がけではないですか。
「存じております」
「平民で礼儀もなっとらんあたしよりも、トーニャちゃんのほうが王妃に向いてるくらいのことはわかる」
「でも聖女様には圧倒的な魔法の力があるではありませんか」
「いや、トーニャちゃんだって大したもん。魔法ならあたしの半分くらいの実力がある」
……変ですね。
雰囲気からすると、どうもトーニャ・ハモンドが愚痴っているみたい。
トーニャ・ハモンドはオズウェル殿下の婚約者になりたかったわけではない?
となるとトーニャ・ハモンドが殿下を誑かしたというのはデマ?
いや、オズウェル殿下は比較的誰に対してもフランクで、トーニャ・ハモンドを特別扱いしていると感じたことはなかったです。
だからこそ婚約決定で驚いたのですが。
そしてトーニャ・ハモンドの魔法の実力は、ムム様の半分ほどもある?
ムム様は世界唯一の聖女ですよ?
半分というのが本当ならば、優に王家が注目するだけはありますよね。
加えてアカデミーの学業成績と持ち前の美貌を合わせると、オズウェル殿下の婚約者である資格が、実は十分なのでは?
「……誰か婚約者代わってくれないかしら」
「トーニャちゃんはオズウェル殿下のこと嫌いなん?」
「……好きです」
やはりオズウェル殿下との婚約自体に忌避感があるようです。
自分の出自から向いていないと考えている?
まともな感覚ですね。
トーニャ・ハモンドはよく状況が見えているように思えます。
であるにも拘らず、オズウェル殿下のことを好きと言い切る純粋さ。
素晴らしいではないですか。
「婚約後も殿下はふつーに接してくるんでしょ?」
「ビックリするくらい普通ですね」
「オズウェル殿下はやるなあ」
わかります。
王族の教育を受けているからかもしれませんが、オズウェル殿下は親しげに接してくるにも拘らず腹を見せません。
今トーニャ・ハモンドが女子生徒から総攻撃されているのは、王家やオズウェル殿下のフォローがないからという考え方もできます。
あるいはトーニャ・ハモンドのストレスに対する耐性を見たいということなのかもしれませんが。
「まートーニャちゃんが婚約者になったことに関しては、殿下の意思もあったんじゃないの? トーニャちゃん可愛いし」
「……」
確かに可愛いです。
メイクあるなしで随分印象の変わる顔ですね。
片や美人、片や可憐ってインチキじゃないですかね?
そりゃあオズウェル殿下だって気に入るに違いありません。
「もっと素直に喜べばいいと思うよ。どーせ王命で断れない婚約なんだから」
「断れない……そうですね」
ムム様の言う通りでした。
オズウェル殿下とトーニャ・ハモンドの婚約は王命です。
外野があれこれ言ったところで、解消されることはないでしょう。
トーニャ・ハモンドにそれだけ個人としての魅力と実力があるのは事実ですし。
おまけにどうやら自己客観視もできている。
トーニャ・ハモンドを見直しました。
となるとわたくしのしなければならないことは何でしょう?
いつまでも婚約にケチをつけていることが賢いとは思えません。
逆にトーニャ・ハモンドを後押ししてやるべきですね。
それが国のためであり、臣たるものの務めでしょう。
こっそりその場を後にします。
――――――――――慈善バザー終了後、教会にて。聖女ムム視点。
トーニャちゃんもオズウェル殿下の婚約者に決まって以来、結構精神的にお疲れみたいだな。
真面目だから。
とゆーかトーニャちゃんみたいに何にでも真面目に打ち込む子は見たことないわ。
元々素質もあったんだろうけど、あたしみたいに聖女の加護持ちってわけでもないのにバリバリ魔法使えるしな。
親御さんに手ほどきを受けたとゆー剣術も一流。
トーニャちゃん剣術大会女子の部で優勝したって言うけど、身体強化魔法ありなら多分男子でも勝てないぞ?
そーゆー意味で時には王の盾とならねばならない王妃の資質として、トーニャちゃん以上の子ってちょっと考えられない。
あたしを除けばだが。
でもあたしは何考えてるかわからないオズウェル殿下嫌い。
飄々としているオズウェル殿下と言動の無礼なあたしのカップルは、クラシカルな価値観を持つ保守派貴族の理解を得にくいだろうな。
また世界唯一の聖女であるあたしが一国の王妃の立場になるのも、他国の反発を食らいそうではある。
あたしが殿下の婚約者候補から外れたのはその辺が理由じゃないかな?
普通の価値観だったら、公爵令嬢グウェンドリンちゃんがオズウェル殿下の婚約者で全く問題なかった。
でもグウェンドリンちゃんが王妃である未来は、良くも悪くも今までと変わらないんじゃないかって気がする。
たまたま聖女のあたしが生まれて、またトーニャちゃんという優れた個性が現れた。
王家は国の舵取りをいい方向に変えるためにトーニャちゃんに懸けた。
「……とゆーのがあたしの推察だけど、どお?」
「やっぱりムムさんは鋭いね。というかムムさん僕のこと嫌いだったの? 知らなかったんだけど」
オズウェル殿下がお忍びで教会を訪ねてきた。
おそらく今日の慈善バザーにトーニャちゃんもグウェンドリンちゃんも参加したことを知ったから。
あたしんところへ様子を聞きに来たに違いない。
そんだけ気を回す暇があったら、トーニャちゃんを構ってやれと言いたい。
「あたしは正直な人が好きなの。まあ一国の王は正直なだけで務まらんことはわかってる」
殿下苦笑しとるわ。
「で、他の要素は」
「他の要素とは?」
「さっきあたしが言った以外の、婚約に至った理由だよ。殿下はトーニャちゃんのこと好きなんでしょ? その辺の事情を聞かせてよニヤニヤ」
あたしのカンを誤魔化そうったってムダだ。
絶対にオズウェル殿下はトーニャちゃんに気がある。
「敵わないなあ。トーニャの父である近衛兵ダグラス・ハモンドは、僕の剣の師なんだ」
「そーだったの?」
「ああ。だからトーニャのことはもちろん昔から知ってて。模擬剣でポカスカ殴られたものだよ」
「あれま」
「トーニャが魔法に熱心で特に回復魔法が上手いのは、ケガした僕を治すのに特訓したから」
「ええ?」
予想外の事実が出てきたぞ?
「トーニャちゃんとは結構仲いいと思ってたけど、殿下のこと昔から知ってたなんて聞いたことないわ」
「王族のプライバシーなんて、知ってても喋ることじゃないからね」
「トーニャちゃんってメッチャしっかりしてる子だな」
「でもそこは重要じゃないんだ」
「王族のプライバシーを漏らさないことより重要なのは何か聞こうじゃないか」
「トーニャにボコボコにされて僕はすっかり傷物なんだ。トーニャに責任持ってもらってもらわないと」
「ええ?」
傷物(物理)ってこと?
オズウェル殿下ってこーゆーこと言う人だったんだな。
本音ってことはわかる。
何かうっとりした顔してるぞ?
「殿下がトーニャちゃんを好きだとゆー言質はもらった。トーニャちゃんも今日、殿下のこと好きだと言ってたけど」
「本当かい!」
「本当だよ。でもトーニャちゃん、殿下との婚約自体には疑問だったぞ?」
「僕の愛が伝わってないってことか」
「そうそう。殿下と婚約したことでトーニャちゃん、かなり令嬢達からヘイト買ってるんでしょ? もっと庇ってやんなよ」
「……難しいんだよ。ムムさんならわかるでしょ?」
「まあ」
オズウェル殿下に庇われることで、トーニャちゃんは余計に女子生徒から反発を食う恐れがある。
また殿下も評判の悪いトーニャちゃんを構い過ぎると幻滅されかねない。
「トーニャが実力を示す機会なんて、今後いくらでもあるんだ。必ず支持は広がる。だから今は辛抱の時」
「今日のバザーはグウェンドリンちゃんも来てたんだよ。こっそりあたしとトーニャちゃんの会話を聞いてた」
「ふうん?」
「トーニャちゃん悪くないのに苦しい立場だ、ってことを吹き込んだったわ。多分グウェンドリンちゃんは味方してくれる。あたしのカンだけど」
「今ロッドフォード公爵家の賛意を得られるのはありがたいな。皆がおやっ? と思うだろう。風向きが変わりそう」
「殿下はせめてお茶会とかで、トーニャちゃんをフォローしてやってよ」
「それよりも久しぶりにトーニャと剣術の稽古を一緒にしたいなあ」
「ええ?」
ぶっ叩かれたいの?
殿下も大概おかしな趣味だなあ。
でもトーニャちゃんもストレス解消になるかもしれないな。
状況は徐々によくなりそう。
「ありがとう、ムムさん。今日来てよかったよ。僕とトーニャの間に障害はないとわかった」
「今の話で障害がないって結論になるのか。殿下は大物だなあ」
貼りつけたような貴公子の笑顔を見せるオズウェル殿下。
だからその内心を見せない顔は嫌いだとゆーのに。
もっとも殿下が障害はないと見ているなら、時間だけの問題だろうな。
頑張れトーニャちゃん。
オズウェル殿下とトーニャちゃんはお似合いだよ。
何たって相性がいい。
問題は家格差だけだもん、そのギャップは必ず埋まる。
トーニャちゃんは才能と努力と愛の三冠に恵まれた子だから。
幸せの未来が訪れる。
あたしのカンがそう言ってる。
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