あなたのとなりで雨宿りを
(私は、魔物と結婚するのではないかしら)
その魔物、ルーキスはリーリアのとなりにいて、いかにも生真面目で融通の利かない顔で薬草を摘んでいる。
淡々と、薬草について説明をする。
辺境伯姫リーリアは、客人であるルーキスと契約をしている。リーリアは17歳で、ルーキスは見た目には20代の青年だ。
ルーキスが魔物であることは、リーリアしか知らない。
ルーキスは、病弱なリーリアが死ぬまでそばにいて、生かしてくれる。その代わりリーリアは、死ぬときに家宝である『花の種』をあげる。
そういう契約だ。
(契約結婚でも、良いのだけど)
リーリアは、そう思う。
もともと結婚に憧れがないし、リーリアが持っている花の種は本来、伴侶にあげるものだからだ。しかし結婚に、ルーキスは頷かない。
「私は魔物なので」と、頑なだ。
「薬草を摘みに行くのに同行したい?」
いつも無表情なルーキスは、わずかに面倒そうな顔をした。リーリアがまた熱を出すと思っているのだろう。
「自分の体に効くものを、ちゃんと知っておきたいの」
ルーキスは渋々ではあったが、薬草摘みに連れて行ってくれた。
ルーキスは黒いスーツを着て、黒い髪を、額を出すかたちでまとめ上げている。リーリアははしばみ色の瞳、同じ色のふわふわの髪、黒いドレスだ。
「リーリア」
薬草摘みの途中、急にルーキスは立ち上がる。
「雨が降る」
快晴だ。
けれどリーリアは、ルーキスを信じた。
洞穴には小さな魔物が居たが、ルーキスを見るなり逃げ出していった。
入った途端に、どしゃ降りの雨になった。小さな魔物たちは戻ってこない。
「かわいそうだったかしら」
リーリアの言葉に返答はない。
ルーキスは魔術でカンテラに火を灯し、床に置いた。リーリアのそばに。
静かだった。
会話もなく、少し離れて。
洞穴の入り口から、ふたりで雨を見つめた。
「リーリア。今日はもう、難しそうだ。
続きはまた今度にしましょう」
リーリアの表情を見て、ルーキスは続けた。
「雨が止んでも、寒くなる。
体に障る。帰りましょう、リーリア」
リーリアの部屋に戻り、ふたりは話す。
「魔王様ほどの魔力があれば、雨を止ませることもできるのだが」
「雨を止ませる? 御伽話みたいね」
魔物と結婚するというのも、御伽話のようだ。
言葉はなくとも。
ルーキスはいつも、リーリアを気遣う。
(ルーキスさんと結婚できたら、一番良いのにな)
予感はありつつも、特に進展はなく。
けれど、ふたりはいつも、一緒にいる。




