1-5 あかつき闇の王国
冷たい石の感触。 瑠華の身体は、まるで自分の意志とは無関係に、硬いテーブルに貼り付いているかのようだった。 ほぼ裸の身体は、冷たく、そして、異様に重く感じられた。 頭上では、巨大なクリスタルシャンデリアが煌々と輝き、その光は、傷だらけの肌を冷たく照らしている。 それは、まるで、彼女の無力さを嘲笑っているかのようだった。
断片的な記憶が蘇る。 スフィアの残骸… そして、何かに支えられて意識を失った後… 見慣れない風景… 暗い草原と建物… そして、「今。 ここは… どこ?」
何人かの気配。 恐怖で動こうとすると、全身に激痛が走る。 擦り傷、打ち身… 高架からの落下時の衝撃が、今もズキズキと痛む。 顔には、深い切り傷があり、そこから血が滲み出ている。 体中が、無数の傷跡で覆われている。 血と泥で汚れた体は、まるで、使い捨てられた人形のようだった。
僅かに目を動かし見渡すと、重厚な木のテーブルを囲んで、奇妙な装飾を身につけた者たちが座っている。 彼らの視線は、冷たく、そして、どこか蔑んでいる。 それは、まるで、瑠華が、この世の塵芥であるかのような視線だった。 新たな者が加わる度に、その視線は、より冷ややかで、嫌悪感を帯びていく。
新たに座る人数が増えると、その嘲笑はだんだんと、より冷ややかで嫌悪感を帯びている。
「ふむ…… これが、異世界から召喚された者か」 威圧的な男の声。
紫色のローブを身につけた老婆が、瑠華を、まるで実験材料でも見るかのように、じっと見つめている。 その視線は、冷酷で、そして、無関心だった。
「そのとおり異世界者です。しかし、こんな見栄えが悪く、何も感じられない女はこの城にはいらないわ。魔素もなく、容姿も魅力がない。こんなものは、使い物にならない」
老婆は、瑠華を汚れた動物を見るような目で睨みつけた。彼女の視線は、瑠華の顔の傷から、全身の傷跡に留まる。
「それに……この体……見てください。まるで、ゴミ捨て場から拾ってきたような姿よ」
老婆の言葉に、周りの者たちも、瑠華をさらに憐れむような、あるいは嘲笑するような視線を向けてくる。 彼らの言葉は、どれもこれもが、瑠華の心を深くえぐる。
「魔力はない。戦闘能力もないでしょう。… 使い物にならない」 老婆の隣に座る、体の薄い女性が、冷たく言い放った。彼女の目は、瑠華の傷ついた体をじっくりと観察している。
「動かない状態じゃ、奴隷市場にすら出せないだろうな」
テーブルの向かいに座る、太った男が、ため息をついた。
「本当に、残念な召喚だった」「時間の無駄よ」 嘲笑と軽蔑が混ざった言葉が、次々と投げつけられる。 瑠華は、テーブルの上で、小さく震えている。 全身が冷たく彼女は、自分が、まるで、ゴミのように扱われていることを、痛感した。
「… 処分しましょう」 老婆の冷酷な言葉が、瑠華の心に、深い傷を刻み込む。 彼女は、絶望の淵に突き落とされ、何もかもを諦めそうになっていた。
小者たちの片付けが始まった。その時、小柄な女性が口を開いた。
「ちょっと待ってください。廃棄で処分する前に案があります」その瞬間、かすかな光が、瑠華の心を灯った。
全員の視線が、彼女に向けられる。
「臓器移植の業者なら買うかもしれません」
女性は、淡々と、しかしどこか冷酷な表情で言った。
「この状態では、奴隷としては価値がないでしょうが、臓器はまだ使えるかもしれません。この傷の深さから見て、太い筋肉と内臓は大丈夫。臓器移植の材料として価値があるかもしれません」
彼女の言葉に、老婆の顔に、わずかに興味が浮かんだ。「なるほど、そういう手もあったわね」
「その業者は、かなり変わりものです。使用に制限をつけなければ面白い値段をつけるかもしれません。小銭を払って廃棄で処分するよりはましでしょう」女性は付け加えた。
老婆は、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「わかったわ。その方法にしよう」
瑠華の心は、凍りついたままだった。
あかつきの王国、他国からの通称「あかつき闇の王国」で、奴隷として売られるよりも、さらに恐ろしい運命が、待ち受けている。
臓器移植業者。その言葉は、瑠華の心に、黒い絶望の淵を刻み込む。