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2−6 瑠華の覚醒 記憶と未来

挿絵(By みてみん)


 朝の光が、まるで誰かがそっと置いていった忘れ物のように、瑠華の瞼に触れた。それは、長く続いた悪夢の終わりを告げる、静かで優しい合図だった。ゆっくりと目を開けると、世界は、昨日までの灰色とは全く異なる、鮮やかな色彩で満ち溢れていた。まるで、別の次元へと足を踏み入れたかのようだった。


 部屋の空気は、かすかに冷たく、古びた紙の匂いが漂っていた。それは、懐かしい図書館の香り、あるいは、秘密の書庫を思わせる、独特の匂いだった。瑠華はベッドから起き上がり、窓の外を見た。空は、どこまでも深く、澄み切った青色だった。まるで、ゴッホの絵画のように、鮮やかな青色が瑠華の心を満たしていく。


 その時、瑠華は、冷たい視線を感じた。ゆっくりと視線を上げると、そこにいたのはギルバートだった。あの臓器買取業者、かつての敵。その事実は、瑠華の脳裏に鮮明に焼き付いていた。信用などできるはずがない。


 しかし、ギルバートは、予想外のほどに整った顔立ちをしていた。そして、彼の瞳には、奇妙なほどに優しい、それでいて物悲しい微笑みが宿っていた。その笑顔に、瑠華は一瞬、心を奪われそうになった。


「すまない… 瑠華さん」


 ギルバートの声は低く、落ち着いたトーンだった。まるで、古い映画のナレーションのように、情感を抑えた、しかし、どこか重みのある声だった。 ギルバートは、革張りの古いノートを瑠華に差し出した。


「これは… 君の体の下にあった。大切なものだと思う」


ギルバートの声には、これまでとは違う、何とも言えない温かみが含まれていた。


「ありがとう…」


 瑠華は、かすれた声で感謝の言葉を述べた。ノートには、ハラルド・グンナのノートと同じマークがあった。それを開くと、星屑のようにきらめく文字が飛び込んできた。


 それは、まるで、前世の記憶が蘇るかのようだった。システム的な思考、緻密な計算、そして、明確な目標設定。


 瑠華はペンを取り、ノートに書き始めた。まずは、重要度のランク付け。そして、最終的なゴール。暗殺者からの逃亡、そして、星屑のメンバーの集結。


 彼女の心は、軽やかに、鳥のように羽ばたこうとしていた。そして、前世の言葉を思い出した。


======================

「緊急の用事は、たいていは目にみえる……。

しかし、ほとんどは重要な用事ではない」

======================

スティーブン・R・コヴィー(7つの習慣)


 それは、彼女にとって、もう一つの世界への入り口、そして、未来への羅針盤だった。ペンを手に取り、考え、言葉を紡ぎ始める。それは、彼女の魂の叫びであり、希望の歌だった。

 焦る必要はない。彼女は、この世界を変える方法を見つけ出すだろう。



 ギルバートは、淡々と説明を進めた。

 「脱出は成功した。闇の医師が君の体を元の状態に戻してくれた。あと一週間で歩けるようになるだろう。一ヶ月後には… 走れる」


 彼の言葉は正確で、感情を含まない、まるで精密機械が動くような正確さで、状況を説明していく。


「だが、まだ安心はできない。王国の暗殺集団が君を追っている。今度は百人規模の大部隊だ。国境まで逃げる必要がある。そこで… 私たちは反政府組織と接触する。彼らのリーダーには… 貴族も加わっている」


 ギルバートの言葉は、静かに、しかし確実に、瑠華の心に重くのしかかってきた。逃げ場のない閉塞感に、瑠華は息苦しさを感じた。


「だが… 私たちには二つの道がある」


 瑠華は、ゆっくりと、しかし力強く言葉を紡いだ。


「一つは… アグニが提案した、反政府の貴族と同盟を組むこと。精霊の加護がある力を貸すことだ。もう一つは… 1000年の記録を持つ灰色ドラゴンに会いに行くこと。この国の現状の根源を探ることだ」


 瑠華は自分の指先をじっと見つめた。その指先には、まだ、あの冷蔵室の冷たさが残っているようだった。


「… どうする?」


 瑠華の自問自答は、静かに、しかし力強く、夜の闇に響き渡った。

 アグニ、セリナ、ハロルドが部屋に集まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「明日、出発だ!灰色ドラゴンの巣窟へ!」

瑠華の宣言に、部屋の空気がピリリと張りつめた。


 アグニは、両手を広げ、まるで舞台役者のごとく叫んだ。「おう!待ってました!ドラゴン様、覚悟しろー!」


 セリナは、いつもの冷静さで、

「瑠華、計画通りに進めましょう。私は、あなたの盾となり、剣となる。」


 ハロルドは、穏やかな表情を崩さずに言った。

「瑠華… 危険を察知したら、すぐに合図をくれ。私は、君の安全を最優先する。」

 揺るぎない決意が感じられた。


 ギルバートは、その様子を、まるで遠い星を眺めるかのように、静かに見つめていた。彼の表情は、読み取ることが難しいものだった。しかし、その奥底には、瑠華への信頼と、わずかな期待、そして、彼女を案じる思いが感じられた。

現在、こちらの「小説家になろう」で続けてアップロード中です。


別サイト「note」では少し進んでいます。先読みもできます。

https://note.com/jud/n/n6bb165f74490

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