2-2 星屑の導き、騎士ハラルド・グンナ
冷たい風が、瑠華の傷ついた心をさらに締め付ける。荷馬車で逃亡中、彼女は何度か失神し、体には深い傷、心には計り知れない恐怖が刻まれていた。臓器移植の犠牲にされたその恐怖は、今も鮮明に彼女の記憶に焼き付いていた。
そんな時、彼女の視界に無数の星屑が舞い上がり、その中に、一人の男の姿が浮かび上がった。王国の騎士、ハラルド・グンナ。かつて王国を誇り高く守った英雄。その姿は、まるで希望の光のように、瑠華の絶望的な心に差し込んだ。
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冷たい風が、凍えるような恐怖を瑠華の体に吹き付ける。 束の間の安堵もつかの間、背後から鋭い殺気が迫ってきた。セリナが鋭い叫く小さな声を上げる。「後ろ!」
咄嗟に、瑠華とセリナは近くの茂みに身を潜めた。 同時に、アグニも異変を察知し、身を低くして走り出す。 闇夜を切り裂くような金属の擦れる音。それは、暗殺者の短剣が地面を削る音だ。 死の宣告が、瑠華の耳元で囁く。
暗闇の中で、短剣が鋭く閃く。セリナは、鍛えられた身のこなしでそれをかわし、素早く反撃に出る。彼女の剣が、闇の中で妖しく光る。しかし、相手は複数。アグニも応戦するが四方から迫りくる影は、まるで死の影のようだった。
絶体絶命の状況。瑠華は、恐怖で体が震えるのを感じた。その時、闇の中から一筋の光が走った。それは、まるで、夜空を切り裂く流星のように。
一人の男が、暗闇の中から現れた。星屑の中に見た、あの騎士、だった。彼の姿は、希望そのものだった。
ハラルドは、まるで影のように静かに動いていた。彼の動きは、速すぎて、肉眼では捉えられないほどだった。一閃、二閃。彼の剣が、闇を切り裂く。それは、ただ斬るだけでなく、敵の動きを完全に封じる、完璧な技だった。
王城の暗殺者たちは、彼の圧倒的な力に体が硬直する。
一撃、また一撃。ハラルドの剣は、正確無比で、敵の急所を的確に捉えていく。 血しぶきが、闇夜に舞う。
まるで、熟練の舞踏家のように、ハラルドは暗殺者たちを翻弄する。彼の剣は、死の舞踏を踊るように、敵の命を奪っていく。 それは、芸術であり、同時に、冷酷な殺戮だった。
一瞬にして、暗殺者たちは倒れた。静寂が戻り、闇夜に、血の匂いが漂う。 ハラルドは、静かに瑠華たちの前に立った。彼の瞳には、冷酷さと、同時に、深い悲しみが宿っていた。
瑠華は、彼の圧倒的な力に驚き、そして、安堵を感じた。しかし、同時に、彼の存在に疑問を感じた。なぜ、騎士が彼女を助けるのか?なぜ、王国の暗殺部隊と戦うのか?
ハラルドは、瑠華に優しく語りかけた。
「私は、ハラルド・グンナ。神の声に従い、あなたを救いに来た」
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騎士、ハラルド・グンナ。かつて王国を誇り高く守った英雄。彼の剣は正義の象徴であり、その名は王国中に響き渡っていた。しかし、王宮の闇を知ってしまった彼は、その道を捨てざるを得なかったのだ。
王宮の陰では、人身売買が密かに続けられていた。特に、召喚され異世界人と呼ばれる人々は、非人道的な扱いを受けていた。ハラルドは、その残酷な現実を目の当たりにしていた。正義を貫くはずの王国が、裏では悪辣な犯罪を黙認し、加担していたのだ。絶望が、彼の心を蝕んでいった。
そして、瑠華が召喚された日。王城でその光景を目撃したハラルドは、神からの啓示を受けた。それは、臓器移植業者に売られようとしていた瑠華の姿を通して訪れたのだ。
瑠華の絶望的な瞳、そして、その瞳に映る無数の星屑。その瞬間、ハラルドの耳に、神の声が響き渡った。
「助けなさい…… ハラルド・グンナよ……」
その声は、彼の心に深く突き刺さり、眠っていた正義感を呼び覚ました。しかし、続く神の声は、ハラルドの予想をはるかに超える衝撃的な内容だった。
「この異世界人を助けよ…… 女は、この世界の未来を担う者だ……」
それを受けてから、王城での暗殺部隊の不穏な動きはハラルドにも忍び寄ってきた。彼は、かつての仲間たちとの繋がりを断ち切り、王城から身を隠すことを決意した。
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ハラルドは、瑠華に自分の本皮のノートを見せた。そこには、神からの啓示を証明するかのような、不思議な印が刻まれていた。それは、彼らが共に戦うべき運命にあることを示しているかのようだった。
「この印は、神からの証だ。私たちは、共にこの王国を変えなければならない。」
瑠華は、彼の言葉に希望を感じた。傷ついた体と心は、まだ癒えていない。しかし、彼の力強い言葉と、神からの啓示は、彼女に戦う勇気を与えてくれるだろう。
星屑のように散り散りになっていた希望の欠片が、アグニとセリナに加え、さらに輝き始めたのだ。 それは、長く険しい道の始まりでもあった。
しかし、暗殺部隊は、数十人の規模。まだ諦めていない。彼らは、再び瑠華に襲いかかってくるだろう。ハラルドもまた、王国の怒りを背負うことになった。
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