1-11 弓使いアグニ、忍びセリナ
アグニは、深い緑色の瞳に、漆黒の髪を束ねた、凛とした弓使いだった。 彼女の弓は、精巧に作られたもので、まるで彼女の腕の延長のように、自然な一体感を醸し出していた。 彼女の動きは、しなやかで、そして、正確だった。 それは、長年の鍛錬によって培われた、熟練の弓使いの証だった。
騎士団での勤務中は徹底的にプロフェッショナルとして振る舞い、オフの時間には完全にプライベートを満喫する、メリハリのある生活を送っていた。私的と公的を明確に区別していた。
しかし、今回の件は例外だった。 臓器移植業者に捕らえられた瑠華を救出するという、アグニにとって忠誠を誓う王国の出来事に、個人的な関与を強いられた事件だった。 それは、アグニの予期せぬ事態だった。
アグニは、王都の裏門から臓器移植業者を追跡した。そして、そのスラム街の場所は情報屋からの情報で危険な人身売買ギルドの拠点だという情報を掴んだ。貴族からの裏需要は多く、警備は厳重で 常に10人以上の奴隷と臓器移植のストックがあるとのこと。その情報は、アグニが普段から築き上げてきた国の奴隷制度に違和感を持つ人脈の賜物だった。
一緒にいるセリナは異世界からきた忍び。 趣味は古書と古地図からの暗号解読。暗号から時々、とんでもないお宝に巡り合う。
あの瑠華がきた日、セリナのオープンネットワークは異世界との接合部にも向いていた。草原方面からソフィアの悲鳴のようなデジタル信号が際立った。「これは商業ギルドを通さないお宝情報だ」彼女の琴線が響いた。ソフィアからの0と1のデジタルコードはパズルのように組み立てられる。異世界で使われるコードは暗号のように解読されていく。5時間余りでソフィアとセリナがコードで繋がった。
「助けてください」
セリナには誰かからの短文を聞き取る。
「わたしのパートナーがあなたの世界に落ちました。身体機能は停止されています。しかし、大きな可能性のある人間です。」
ソフィアからのメッセージは明瞭に続く。
「彼女が危険な状況です。すでに体の一部は切除されました。明日、命がもっと危険です。謝礼は充分ご用意します」
セリナは、メッセージを読み終えると、小さく笑みを浮かべた。 彼女は、ソフィアからの依頼に、強い興味を抱いていた。 異世界からの謝礼は、とんでもない額になる可能性もあった。 それに、彼女は、危険な仕事ほど、ワクワクするのだ。
「ふふふ……これは、面白くなりそうだわ。 一体、どんな女性が、ソフィアの『世界を変える女性』なのかしら? それに、謝礼が『充分』って……一体、どれくらいくれるのかしらね? 宝の山かしら? それとも古代の秘宝かしら?」
セリナは、想像力を膨らませ、一人で楽しそうに呟いた。 彼女は忍者として、そして、暗号解読の達人として、ソフィアからの依頼に強い魅力を感じていた。それに、彼女は、どんな困難な状況でも成功させる自信を持っていた。
「アグニ! 緊急の依頼よ! ソフィアから、超ヤバい依頼が来たわ! 世界を変える女性の救出劇よ! しかも、明日には、命がヤバくなるらしいわ! ワクワクが止まらないわ!」
セリナは、アグニに連絡を取り、興奮気味に報告した。 彼女は、アグニの冷静な判断力と、高い戦闘能力を信頼していた。 彼女は、この依頼を成功させ、ソフィアのいう女性と出会うことを心から楽しみにしていた。
「ふふふ……準備は万端よ! 忍び装束に、閃光手裏剣、そして、秘密兵器の『超小型爆竹』も忘れずに! 忍者映画のワンシーンみたいね! 楽しみ!」
セリナは、得意げに、準備に取り掛かった。 彼女は、自身の忍術と、アグニの弓矢の連携によって、敵を無難に倒せる自信を持っていた。
「あの女は私の王城で、こんな目に遭わされた。 これは 私自身の精霊に関わる延長線として、彼女を救い出す」
アグニは、まず、冷凍庫の構造と警備状況を詳細に調査した。 彼女は、単に力ずくで突入するのではなく、最小限のリスクで最大限の効果を得るための、戦術的なアプローチを重視した。 それは、アグニが長年培ってきた、弓使いとしてのスキルと、広い視野に基づいた緻密な計画力によるものだった。それにセリナの忍術が加わる。
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「冷蔵庫の構造図を入手した。 警備システムは、比較的単純だ。 侵入経路は、北側の倉庫から。 そして、女を確保したら、すぐに脱出する。」
冷蔵室の奥深く。 金属の冷たさが肌を刺す、広大な空間。 その間を、薄暗い蛍光灯が照らしていた。 空気は、凍えるほど冷たく、吐く息は、白い霧となって消えていった。 この殺風景な空間が、戦いの舞台となろうとしていた。
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