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「副隊長、最近ご機嫌ですよね」
隊舎の執務室を離れ、街への見回りの最中。帯同する部下の朝比奈にそう言われた千歳は、すんと澄ました表情で「別に普通だ」とだけ返した。すると、朝比奈は両手を後ろで組み、にこりと笑いながら話を続ける。
「前は特に仕事がなくても職場に残っていることが多かったのに、ここ最近は帰宅時間も早いじゃないですか~。それって、やっぱり奥さんが帰りを待っているからですよね?」
上目遣いで期待の眼差しで見つめてくる部下を、ちらと一瞥した千歳。ぐいと朝比奈が顔を近づけたところで、少し離れた場所から女性陣の黄色い声が聞こえたが、千歳は眉間にシワを寄せ「近い」と一蹴した。
「もう、そんなに怒らないでくださいよ」
「見回り中だぞ。きちんと周囲に目を光らせておけ」
「もちろん、周りは見てますよ。でも、最近はめっきり悪鬼も出てこなくて、俺たちの出番も少ないですし……」
朝比奈は腰に下げた剣に手をかけながら、どこか物足りなさそうに呟いた。
「そういうときこそ、気を緩めるな。いつ、何時、奴らが襲ってくるか分からないだろう」
「承知しました、副隊長」
まあ、見回り中はその「周囲に目を光らせる」鋭い視線のおかげで、冷たくて怖い印象を持たれてしまっている千歳だが、こうやって仕事に真面目な上司のことを、やはり朝比奈は尊敬していた。
声を掛けられ手を振ってくる女の子たちに、にこやかな笑みを向け、手を振り返す朝比奈。これで隣の上司が放つ怖さが少しでも緩和されればいいのにと、ひそかに思っている朝比奈の心中に、千歳はきっと気づいていないだろう。




