14
千歳が案内してくれた店は、古い武家屋敷の名残を感じさせる、数寄屋造りの老舗料亭だった。中庭に面した個室だったため、二人きりでゆっくりと料理を楽しむことができた。
「今日は本当に……ありがとうございました」
「いえ、喜んでいただけたらならよかったです」
自宅に着く頃には、空は夕暮れから藍色へと移ろい、星がひとつ、またひとつと瞬き始めていた。
「先にお風呂を沸かしてきますね。旦那様もお疲れでしょうから、ゆっくりお湯に浸かってください」
車を降りて玄関へ向かいながら椿がそう言うと、郵便受けに入っていた手紙を読んでいた千歳が「ええ」と手紙をしまうところだった。千歳が郵便物を確認するのは珍しいなと思いつつ、中へ入り灯りをつければ自宅に帰ってきたのだと実感する。
それから椿が浴室の方へと向かおうとした瞬間、「その前に」と言った千歳の手が椿の両肩に添えられ、引き留められた。
「……少しだけ縁側に来ていただけますか」
唐突に千歳がそう言って、椿はきょとんとしながら後ろを見た。
「縁側、ですか……?」
「ええ」
どうしたのだろう、と首を傾げつつ、椿が後をついていくと、千歳は縁側の障子戸を静かに開けた。
「旦那様……?」
灯りのない庭は薄暗かったのだが、それから庭に降りた千歳が灯籠にそっと火を灯した瞬間、思わず椿は息を呑む。
「……っ!」
月明かりと灯籠の灯に浮かび上がったのは、色とりどりの花々が咲き誇る中庭。朝は何も植えられていなかったはずのに庭に、紫陽花や撫子、クチナシ、桔梗など、さまざまな品種の花が咲いていた。




