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甘味処を出た後、街をぐるりと一巡りするころには陽も傾き始めていた。
以前、椿が体調を崩したことを千歳は気にかけてくれているのか、小休憩を挟みながら買い物をしたので、椿は存分に街歩きを楽しむことができた。
あれから花飾りや手鏡も買ってもらい、今日一日で椿の持ち物が随分と増えた気がする。
仕事ばかりしてきて金はあっても使う機会がなかったと話す千歳に、彼らしさを感じつつも、心のどこかで落ち着かない気持ちが胸に残っていた。
不意に花屋に並ぶ花菖蒲が椿の目に留まったとき、以前、同じ花を見かけたあの日、千歳が別の女性と歩いていた姿が思い浮かんだ。
(あの女性は、誰だったのかしら……)
こんなに満たされた気持ちでいるのに、胸の奥にしまった不安がまた顔を出す。ちらと隣の千歳を見て、胸が締め付けられるのを感じ、自然と顔が俯いた。
「大丈夫ですか、椿さん」
すると、すぐに横から気遣わしげな声が聞こえてくる。視線を上げた先では、千歳がそっと眉をひそめていた。
「これから、すぐそこの料亭で軽めの夕飯でも、と思いましたが」
腕時計を確認しながら、そう言った千歳に椿は言おうとした言葉を飲み込んだ。
せっかくの誕生日なのだから暗い気持ちになるのはやめよう。
自分自身にそう言い聞かせて、椿は「ちょうどお腹が空いてきたところです」と、千歳ににこりと笑いかけた。




