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「目が覚めましたか」
目を開けた千歳とばちりと目が合って、椿の手がぴたりと止まる。ふと笑んだ千歳はしっかりと覚醒しているようで、椿は彼が起きていたことをすぐに悟った。
「旦那様……起きていらっしゃったんですか?!」
「起きていたわけではありませんが……じっと見つめられていたので、目が覚めました」
体を起こした千歳と同じく、布団から起き上がり「み、見つめてなど……!」ととっさに返す椿だったが、赤く染まった頬がそれが図星であることを告げていた。千歳はふと頬を緩めると、椿の額に手を伸ばす。
「だ、旦那さ──」
「熱は下がったようですね」
慌てふためく椿をよそに、千歳は随分と落ち着いている。
「とはいえ、今日は一日休んでください。八重子さんも来てくれるそうなので、昨日医者にもらった薬を飲んで、ゆっくり寝ておくように」
「ですが、朝食の支度だけでも……っ!」
不安げに揺れた椿の心中を感じ取ったのか、千歳はぽんと椿の頭に手を置いて「体調が治るまでは無理をしない」と返す。
「でも……っ」
そう言って俯く椿を目の当たりにして、彼女の甘え下手は相当だ、と思った千歳は「椿さん」と、妻の名前を優しく呼んだ。
「……困ったときはお互い様、と言うでしょう?」
それから「私たちは夫婦なんですから」と続けた千歳の言葉に、ぱっと顔をあげた椿。
「旦那様……」
千歳は目を細め、椿の体をねぎらうように、そっと頭を撫でる。
「……だから、しばらくは体を休めて、早く元気になった顔を私に見せてください」
さらりと流れる色素の薄い長い髪を見つめながら、椿は今更ながらに自分は千歳の部屋で寝ていたことに気が付いた。
窓の外からは次第に朝陽が差し込んで、対面に座る二人の顔をうっすらと照らしていく。椿は両手をギュッと握りしめた後、ときめく胸を押し隠すように、「はい」と小さく頷き、千歳ににこりと微笑みかけた。




