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夜も更け、すっかり外は暗くなり、わずかに開けた障子の向こうから差す月明かりだけが部屋の中を照らしている。千歳の部屋の中央に敷いた布団には、妻の椿がすやすやと眠っていた。
帰宅後、椿が熱で倒れてから、すぐさま医者を呼んで診てもらうと疲労から来る発熱だろうということだった。
ちょうど野菜を持ってきた八重子が着替えや買い出しを引き受けてくれたのも、タイミングがよく助かった。医者や八重子が帰った後は、千歳の部屋でずっと彼女を寝かせている。
千歳は布団の外に寝転がり、片肘をついて眠る椿のことを見つめていた。もう片方の手の先は、椿がぎゅっと握りしめて離さなかったからだ。
もちろん、その手を外すことは容易いことだったが、千歳は椿の手をそのままにして、ただ静かに寝ている彼女を眺めていた。
指先から伝わる温もりに、何とも言えない気持ちがこみ上げる。
日中、前々から行きたかったという植物園に連れていけば、普段とはまた違った顔をして楽しそうに園内を歩き回っていた椿。
花を見つめる横顔はいつだって嬉しそうで、ただ植物園に連れていったというだけで、あれほどまでに喜ぶ彼女を見たときは、来てよかったという気持ちになっていた。
自然に囲まれた場所を、ただ目的もなく歩く。
花壇に咲く花の名前を教えてもらう。
木陰の下で弁当を食べ、他愛もない話をする。
そんな取るに足らない時間が、これほどまでに心安らぐ時間なのだと千歳は思いもしなかった。
きっとそれは「椿とだったから」と思うと、余計に彼女の体調不良に気づけなかった自分の不甲斐なさが悔やまれる。




