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「四ノ宮の令嬢」という声を聞き、千歳は相模や百合子と顔を見合わせた。すると相模は顎に手を当て、鋭い瞳で千歳を見る。
「……白鳥家の娘といえば、確かお前にご執心のご令嬢じゃなかったか。お前に近寄ろうとする女に、片っ端から嫌がらせをしていただろ」
「え、何それ。だったらまずいんじゃない?」
相模の言葉に、百合子も心配そうな表情を浮かべた。
一方の千歳は、ふたりの言葉に小さく息を吐いた。もし仮に衝突しているとなれば自己主張の激しい静華に、おっとりとした椿が言い負かされるのは容易に想像できた。
「少し様子を見てきます」
面倒事が起きたとは思うが、一応夫という立場としても、このまま椿を放っておくことはできない。千歳が様子を見に行こうと、騒ぎの中心へと歩みを進めれば、「私も行く」と後ろからは、相模や百合子もついてきた。
「でも、仕方ないかもしれませんわね。……院瀬見様ったら、一番上にあった見合い写真だという理由で結婚相手を決めたみたいですから」
彼女たちに近づけば案の定、椿に嫌味を吐いている静華。
扇子を口元に当て隠しながら優雅にそれを仰いでおり、静華を囲うように他の令嬢たちも椿に視線を向けていた。
周りの人間は皆、「白鳥家の娘」の様子を伺っているようで、誰も間に入ろうとしない。俯く椿がどんな表情をしているのかは分からなかったが、居心地が悪いのは確かだろう。
千歳は舌打ちをしながら近づき、早々に場を収めようとした。けれど──。
「そうだったのですね」
ピリピリとした場の雰囲気に似つかわしくない、椿の穏やかな声が聞こえて千歳の足が止まった。




