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3

 夜も更け、静まり返った部屋で寝付けずにいた椿は、体を起こし布団から出た。羽織を肩にかけ障子を引いて縁側に出ると、からからと鳴る窓をそっと開ける。


 時折虫の鳴き声が聞こえるだけの、静かな夜。星々が煌めく夜空には、月が光り輝き街を照らしていた。春とはいえ、夜になるとやや肌寒さを感じ、羽織をぎゅっと握りしめる。椿は縁側に腰かけると、そっと夜空を見上げた。


「結婚、かぁ……」


 ぽつり呟いた声が空に消えた。


 世間一般では年頃になると、親が決めた相手と結婚することが多い。


 なかには小さな頃から約束している婚約者と結婚する人もいるそうだが、あいにく椿にはそういった相手もいなかった。


 いずれは自分もと、ぼんやりと考えていたことだが、そんな折に両親が急逝。それどころではなかったこともあり、前から出ていた見合いを受けるのも先延ばしにしていたのだ。


『君に縁談の話があるんだが、どうだろう』


 椿にそんな話を持ってきたのは、父と生前親交があった青山(あおやま)という男だった。和服もスーツもお洒落に着こなす紳士然とした男で、椿も何度か顔を合わせたことがあった。


『悪鬼討伐の特務部隊副隊長を務める院瀬見という青年だよ。隊の中でも出世頭で、優秀な男だと聞いている。稼ぎも十分で、椿君が不自由な生活を送ることはないだろう』


 青山からの突然の話に驚きつつも、椿はちょうど良い頃合いかもしれないと考えた。


 四ノ宮家当主だった父が亡くなり、現当主は椿よりもふたつ下の弟が務めることとなった。


 両親や先祖が代々守ってきたこの家を、葵にはこれから守っていってもらわなければならない。家の存続という意味で、葵が妻を娶ることも当主の務めの一つなのだ。だからこそ、姉である自分も早く嫁に行かなくては。


 今回の見合いを受けることに決めたのも、そういう理由からだった。


「それに私も、もう子どもじゃないんだから、しっかり自立しないといけないわ!」


 ぐっと両手を握りしめ、決意を新たにする椿。


 それは、まるで自分に言い聞かせるように出た言葉だったのか、月が映る瞳はどこか不安げに揺れていた。その不安を掻き消すように、椿は夜空に浮かぶ一等星を見つめ、誓いを立てた。


「……お父様、お母様。私、幸せになりますからね」と呟いて。

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