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『どうしましたか』

『あっちで、お姉ちゃんが……っ、わたしがつれていかれそうになってたの、助けてくれて……っ』


 しどろもどろになりながらも、そう説明をしてくれた少女。


 状況を理解した千歳はすぐさま団子屋の店員に少女の保護と、警察を呼ぶよう頼むと、少女が来た路地の方へと駆け出した。大通りから一歩入った通りは、ひと気がなく、どこか暗い空気が流れていた。


 それから突き当りの角を曲がれば、すぐに椿の姿を捉えた。大男の手が椿の顎を掴み、壁に押し付ける……その瞬間、千歳は拳を固く握りしめ、迷いなくその間へと駆けていた。


 結果、千歳の到着が間に合ったので椿は大きな怪我を負うことはなかったけれど、その後の椿の態度に千歳は強い違和感を感じていた。


 何事もなかったかのように、向けられた朗らかな笑み。


 いつもと変わらない、その笑みの意味を千歳はまるで理解できなかった。それと同時に、自分がこんなにも彼女の存在に心を乱されていることも腹立たしかった。


 仕事のためと決めた結婚だ。


 些細なことに気を取られ、仕事に支障をきたすことは避けたい。だから「有力者との結びつきを」と己の、隊の利のために結んだ椿との関係も「形式的なもの」と、そう割り切ってこれからずっと過ごしていくのだと思っていた。なのに、胸の奥に生まれたざわめきを、どうしてか抑えられなくて。


 と、そのとき──。


「あ、お義兄さんじゃないですか」


 定食屋に入ろうとした千歳の耳に、聞き覚えのある明るい声が聞こえてきた。振り返れば、黒の短髪に同じ色をした丸い瞳。爽やかな笑顔を浮かべる椿の弟、四ノ宮葵がそこにいた。

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