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それから仕立て屋に立ち寄った二人は、社交パーティ用のタキシードとドレスを無事選び終えた。
千歳には他にも欲しいものがあれば買うと言われたが、特にめぼしいものもなかったので、今回はお断りした。
「本当にドレス一着でいいんですか」
「……?ええ、とても気に入ったものを買っていただいたので十分です」
椿が首を傾げながらそう返せば、千歳は「そうですか」と返した後、腕組みをしながら何やら思案しているようだった。食事処や呉服屋、時計店など、さまざまな店が並ぶ大通りは賑わっており、あちこちから商人たちが道行く人々を呼び込む声が聞こえてくる。
「おい、さっき向こうでひったくりがあったらしいぞ!」
と、そのとき、二人の前方から男の叫び声が聞こえてきた。
何ごとかと思って様子を伺うと、「どんな奴だ!」「見に行こうぜ」と周囲も騒がしくなる。「犯人はまだ逃げているらしい」という声も聞こえ、隣の千歳は瞬時に表情を引き締めた。それから辺りに視線を巡らした後、椿に向き直った千歳。
「私は少し様子を見てきますので、貴女はここで待っていてください」
「は、はい!」
千歳はそれだけ言うと、人が集まる方向へと駆け出していく。椿は胸元で手をぎゅっと握りしめ、心配そうな表情で千歳の背中を見送った。
(無事、犯人が捕まったらいいけれど……)
するとそんな折、椿の耳に「いやだ、離して!」と、子どもの声が聞こえてきた。




