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「みんなの気持ちは嬉しいけれど、お父様とお母様の喪もあけたし。そろそろ嫁に行かないと、天国にいる二人も心配するわ」


 明るくそう言った椿に、みな「それは」と口をつぐんでしまった。椿と葵の両親は、1年以上前に事故で亡くなった。屋敷中の者が悲しみに暮れたあの日から、もう1年という月日が流れたのかと思うと、時の早さはあっという間に思われた。


 沈黙が広がる室内。椿は俯く使用人たちを困ったように笑いながら見渡しつつ、「それに」と言葉を継ぐ。


「葵だって、早くお嫁さんをもらわなくちゃいけないじゃない。姉の私が、いつまでもこの屋敷にいるわけにはいかないもの」


 ぐっと両手を握りしめ、そう熱弁する椿に「ですが……っ!」と、口ごもる葵。


 父が亡くなり、この四ノ宮家の当主は葵が務めている。それがどういうことなのか、椿も分かっているつもりだ。


「私のことは大丈夫だから。姉の門出を笑顔で送りだしてちょうだい」


 そう言われてしまえば、葵は何も返せなくなる。


 それから「葵のことを頼んだわよ、みんな」と続けた椿に、使用人たちも目を見張った後、次第に瞳を潤ませた。


 生まれたときから成長を見守ってきた娘の、健気な願いが胸を打つ。それは、弟の葵も同じだったようだ。


「……分かりました。姉さんの幸せを、俺たちも願っていますから」


 ふと頬を緩め、そう言った葵に、椿は「ありがとう」とにっこりと微笑みを返した。


「そうと決まれば見合いの日に着るお着物を用意しなくちゃいけませんね!」


 しんみりとした空気を跳ね飛ばすかのように、使用人の一人が明るい声をあげた。それから、


「だったら姉さんの着物は俺が見立てるぞ」

「嫁入り道具の支度も必要だろう」

「お嬢様に料理も教えておかないと」


 と、葵も交えて急に張り切り出した使用人たち。


 いつものごとく賑やかな空気が部屋の中に流れ始めたのを感じると、椿は周りに気づかれないように小さく息を吐き、両手をギュッと握りしめた。

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