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春の訪れとともに、色とりどりの花々で華やぐ庭園。穏やかな陽気に包まれたこの日も、変わらず凛と佇んでいる日本家屋、それが四ノ宮椿の生家である。そんな立派な住まいの大広間には、家の者たちが集まっていた。
「姉さん、本当に今回の縁談をお受けするおつもりですか」
黒い短髪に、同じ色の瞳。「爽やか」という言葉が似合う清潔感のある青年、四ノ宮葵は、対面に座る姉を気遣わしげに見て、そう尋ねた。
「ええ、そのつもりよ。形だけのものだけど、今度お見合いの席を設けることになったわ」
胸ほどまである艶やかな長い黒髪に、やや垂れ目がちな黒い瞳、筋の通った鼻、紅を引いた赤い唇。春らしい桜柄の着物を着た椿は、心配そうな瞳を向ける弟に、にこりと優しく微笑みかけた。
「私ももう年頃だし。むしろ、結婚が少し遅かったくらいだもの」
おっとりとした椿の言葉に葵は、太ももの上に置いていた両手をギュッと握りしめて俯いた。
「ですが……っ、相手は悪鬼討伐特務部隊の副隊長というではありませんか!悪い噂の絶えない男の元に姉さんが嫁ぐことになるなんて、俺は不安で仕方ないです……っ!」
葵の言葉に、周りにいた使用人たちもうんうんと頷いている。
「孫のように思ってきた椿様がご結婚されるのは、それは私たちも嬉しいことですよ?でも、あの副隊長といえば血も涙もない冷血漢だとか、女嫌いやら、金遣いが荒いやらと、そんな評判ばかり聞きますよ!」
「お嬢様くらい別嬪の娘なら、縁談なんてほかにいくらでも見つかるでしょう!」と続く使用人たちの言葉に、椿は苦笑いを漏らす。
皆、椿にとっても葵同様、家族のような者たちである。自分の結婚相手について、ひどく心配してくれる彼らに、椿は「もう」と、ふと頬を緩めた。