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それから、しばらく屋台を眺めながら散策を楽しんだふたり。途中、かき氷やりんご飴を食べたり、金魚すくい、輪投げをしたりしつつ過ごしていると、あっという間に時間が経っていく。
そんな楽しいひとときだったが、椿にはひとつだけ気になることがあった。夫の千歳に、先ほどからずっと向けられている熱い眼差し……。
「ねえ、あの男の人かっこいいわね!」
「あんな色男見たことないわ……!」
なかでも射的をする千歳に、周囲の女性陣たちの視線が一身に集まり、あちこちから黄色い声があがっていた。台に肘をついて照準を定める涼しげな横顔に、袖をまくり露わになった男らしい二の腕。
「射的も百発百中でしょう?あの真剣な眼差しで、私も見つめられたい~!」
そんな声を耳にした椿は、何となく胸の内がもやもやとした気持ちになっていた。そんな椿の心中を知ってか知らずか、千歳は「はい、どうぞ」と射的で手に入れた景品を差し出してくる。その手には、細身の黒漆の軸の先に、小さな色硝子の玉がついた簪。
水の雫を思わせる透明の玉や、夜空のような青、花火の火のような赤と、色とりどりのガラス玉は屋台の灯りに照らされ、きらりと煌めている。
「安物ですが──」
千歳はそう言いながら、椿の髪に簪を差し入れた。指先が一瞬、うなじの肌をかすめる。そのひやりとした感触に、椿の肩がぴくりと震える。けれど次の瞬間、簪がすっと収まり、髪にきらめく硝子玉が揺れた。
「貴女は何をつけても似合いますね」
甘やかな瞳を向けながら千歳がそんなことを言うものだから、椿はぐっと手を握りしめながら、にやける頬を必死に抑えた。
どこに行っても女性たちの視線を集めてしまう姿には、嫉妬してしまうけれど、彼はいつだってそんな椿の不安を掻き消すような、甘い言葉を与えてくれる。
「ありがとうございます、大事にしますね」
その後、椿は千歳の腕にぎゅっと抱き着くと、嬉しそうな笑顔を見せて、そう言った。




