プロローグ:「問う」
私の手は、剣を握っていた。
柄は冷たく、汗で滑りそうだった。だけど、振るうことはできなかった。
目の前にいるのは、魔性を操る組織の幹部。
学園を襲い、多くの人を殺し、この世界を終わらせようとしている、“敵”。
――なのに。
彼女の目は、あの時と同じだった。
何気ない昼休みの教室で、私に折り紙を手渡してくれたときと、何も変わらない。
仮面をつけているのに、分かった。心が、勝手に反応していた。
「……レイラ」
私の名前を、彼女はそっと呼んだ。
その声に、涙が出そうになった。
戦いの中で、私はたくさんの“魔性”を見てきた。
自我を失い、暴れて、誰かを傷つける人たち。
けれど、彼らは本当に“殺されるしかない”存在だったのか。
私は、いろんな人にそう問いかけてきた。
笑われたこともあった。怒られたこともあった。
「甘い」「理想論だ」と、何度も言われた。
でも、私は知ってしまった。
治せる可能性が、ほんの少しでもあるなら――その手を、離したくなかった。
「あなたは、どうして……」
問いかける私に、彼女はふっと目を伏せた。
そして、静かに言った。
「“誰かを救う”ってさ、どうすれば、できるんだろうね」
私の心臓が、音を立てて跳ねた。
彼女は、優しかった。
でも、私の知らない顔を、たくさん持っていた。
私も、彼女を“全部”は知らなかった。
でも――それでも、分かっていることがひとつだけある。
私は、彼女を殺したくない。
たとえ殺すことが“正しい”ことであっても。
誰かを守るために、誰かを傷つけるこの世界で。
たとえ私の選択が間違っていたとしても。
私は、迷いながらでも、問いかけ続けたい。
「それでも私は、救いたい」
これは、私の物語だ。
剣を振るいながら、人々を守ろうとした、
一人の少女の、救いの記録――