三話・干渉粒子
不定期連載です
「では…クスキさん、どうぞ」
最初に待機していた教室とは別の教室、このサイズはゼミ会議室か。適性検査の仮設検査室にしているらしい。
その教室前の廊下にパイプ椅子が設置され、私は直前待機していたのだ。
この流れ、覚えがある…
そう、そうだ。大学入試の面接の流れと同じなのだ。
あぁ、思い出せてスッキリした。
妙に清々しい顔で室内へ入る私を見た検査スタッフが首をかしげるのを横目に、私は中に居た別のスタッフの案内に従って、室内中央の椅子へと座るのだった。
兄は壁際の保護者待機スペースだろう場所に座っている。
特に私を気にしていないのは、前に兄も受けた経験から特に害のないものだと知っているからだろう。
私も予習して大枠は把握している。
私の目の前には、ショッピングセンターのレジスターを一回り大きくしたような機械が鎮座していた。
外装はシンプルに白一色だが、ちょうどてを伸ばしやすい位置に取っ手が二つ、銀の光沢を持つ凹凸等の無いシンプルな取っ手だった。
これが検知用のグリップか。おそらく消毒や清掃がし易いように凹凸が無いのだろう。印象としてはダンベルの取っ手である。
その機械からケーブルが少しはなれたテーブル上にあるモニターに繋げられ、その前で検査を主導するらしきスタッフがキーボードのようなものを操作していた。
そのスタッフが、私に視線を向けると、検査の仕組みをざっくりと説明される。
「では、その取っ手を両手で握ってください」
簡単な説明のあとに、そう案内された。
体に微量の【継起粒子】を流し込むとかなんとか…
なんというか、体脂肪の測定みたいだな。
【継起粒子】
これはファンタジーで言う魔力とか魔素にあたるモノらしい。物資間の結合を助けたり、構造そのものを強化したりする超科学的な物質とのこと。
魔素で良くない?とも思うけど、研究はそこで思考を止めたら終わりだからな。将来的な発展のためにも、その物質の働きに則した名前を付けることが望ましい。
で、【結合粒子】や【置換粒子】等にも変質するこの万能物質を、対象の共鳴とか感応に特化させたのが【継起粒子】であるらしい。
これを体内に流すと、その反射反応で被験者の適性がおおよそ調べられるそうだ。
フワッとし過ぎじゃね、と思わなくもないが、万能粒子なら仕方ないよね。
中々に不安の残る説明と原理ではあるが、これまで大きな問題が起こってないのだろう。起こったとしても隠してるのだとは思うが…ええい、男は度胸、とばかりに取っ手を握り込んだ。
冷蔵庫の作動音にも似た微細な振動は感じるが、それ以外は特に気になることはなかった。
あれみたいだな、レントゲンやCTスキャン。
前世で年を経て受けた健康診断で、肝臓の数値が少し乱れているからと追加検査をした記憶がある。CTスキャンで内臓を輪切りに撮ったところ、見事脂肪肝だったなぁ…
…めしがうまいのが悪い。今世では気を付けなければな…
と他愛もないことを考えていると、ふと首の後ろがむずむずしていることに気付いた。
耐えられなくはない。耐えられなくはない、が…揉みほぐしたくなるむずむず感だ。
酷くなるかと思えば、鳥肌が立つのを知覚する程度のレベルで収まり、むしろ徐々にむずむず感が引いていく感じだ。
他に違和感がないか意識を巡らしていると、目の前の機械が小さくピッピッピッと3回音を鳴らした。と同時にテーブルに座っていたスタッフが検査の終了を告げたのだった。
検査が終わって、私と兄は最初に集合場所として指定されていた大きめの教室に戻っていた。
検査が終わってすぐ結果が出るかと思ったのだが、どうやら少し時間が掛かるらしい。
結果がわかり次第順番にお呼びしますとこの教室へと帰されたのだった。
「リョー、何かあったのか」
一息付いてボーっと気を抜いていたところに、兄が問いかけてきた。
家族内では『リョー』『リョウ』と呼ばれることが多い。母だけちゃんと『亮平』と呼ぶ。さすが母上。さすはは。
検査中の私の様子に違和感を覚えたからだろうか。ただ心配で、と言うよりは確認の意味合いでの問いかけだろう、声色は軽く気安い。
「首筋が…なんかむずむずした?」
「はぁーン」
正直に言うと兄が何かを思い出す仕草をしながら言葉を漏らす。
わかる。考えていると言葉が漏れる時あるよな。
兄に思い当たる節があるのか、眉間に皺を浮かべながら小さく何度か頷いた。
私は兄に視線で回答を促す。
「いやな、なんかそんな感じのことを…前に聞いたような?」
要領を得ない回答である。
ボケるにはまだ早いと思うが。
視線から何かを感じ取ったのか私の頭を軽く叩くと、顎に手をやりながら言葉を続けた。
「悪いことじゃ無かった筈だ。確か…どっか優れてるとこがあるとか、そんな感じ」
分かったような、分からないような。
まぁ私自身も悪いものではないと思ってはいたが。
何となく、成長痛のような、自分の中で新しい感覚が生まれるような、そんな印象を受けたからだ。
特に気にする必要がなくなったのならば、あとは気楽に待つのみである。
…自分の抽象的かつ要点のみしかないようなアドバイスを聞いて納得した弟を見る兄の視線が、どこか『大丈夫かコイツ』的なものを孕んでる気がするのは気のせいか?
結局、その後は呼ばれるまで私と兄は黙って待機していたのだった。
しばらくペース早いかもしれません




