6. 悪役令嬢の取り巻き令嬢
殿下のエスコートで会場入りすると、既に会場に居た参加者達の視線は一斉に私達に向けられる。
「ひっ」
びっくりして小さな悲鳴が出てしまった。
(あぁ、すごい見られているわ!)
やはり、この誰がどこからどう見てもペアで揃えました!
という服装は目立つみたい。
反応はとても様々。
純粋な驚き、羨望、妬み……様々な意味の込められた視線がチクチク私に突き刺さる。
「凄いね」
隣でエリック殿下も小さな声で感心したように呟いた。
「はい」
「うん、本当に凄いや。皆、キャサリンの事が可愛くて見惚れているんだね」
「はい、そうで…………」
(───ん?)
「……!?」
つい流されながら、返事をしかけてしまい、ものすごくおかしな言葉を言われた事に気が付いた。
私は顔を上げて殿下をの顔をまじまじと見る。
「どうしたの? キャサリン」
殿下が不思議そうな目で私を見ている。その表情といいこれは自身の言動のおかしさに全く気付いていない様子。
(どうしたもこうしたも……!)
「……」
「……さ、さすがにそんなに見つめられると照れてしまうよ、キャサリン」
「……照れ!」
そう言う意味の熱い視線では無いのに、何故か殿下が照れていた。
けれど、さすがに不躾すぎたかもと反省する。
「も、申し訳ございません……」
「だ、大丈夫……コホンッ……それよりもやっぱりキャサリンの可愛らしさが皆に伝わるのは嬉しいな」
「で、ですから!」
「ん? どうかした?」
文句を言おうとしたけれど、殿下の有無を言わさない笑顔が何とも言えない気分にさせてくる。
「……っ、な、何でもないですわ」
私は気恥ずかしくなってしまい、プイッと顔を背けた。
「ははは、キャサリン。バレバレだよ? 顔が赤いよ?」
「で、ですから、何でもないです!!」
(……本当に調子が狂う)
これまでの歴代の婚約者達にはこんな風に優しくされた事なんか無かったから戸惑っているだけ……
それだけなんだから!
と、私は必死に自分に言い聞かせた。
そんなこんなでパーティーは開始された。
殿下とはダンスの約束をしているけれど、しばらくは、各々談笑の時間となっている。
さすが殿下には挨拶に来る人が多いため、彼はすぐに人に囲まれてしまい、仕方が無いので私は彼から少し離れた所に立って会場内をキョロキョロと見渡していた。
(ヒロイン……は来ていないのかしら?)
いまのところ、彼女らしき姿は見つからない。
今日のパーティーは爵位さえあれば関係無しに参加出来るパーティー。余程の事が無い限り参加すると思っていたのに。
あんなに目立つ髪色なのだから、来ていればすぐに分かるはずだけれど、見つからない。
と、そんな時だった。
「キャサリン様! 今日のお召し物は殿下とお揃いなんですの?」
「とてもお似合いですわ!」
「それに、今日のキャサリン様はいつもと雰囲気も違いますのね?」
ヒロイン探しをしていたら、私も令嬢達にあっという間に囲まれてしまう。
決して友人などとは呼べない令嬢達……
(出たわ! 毎度おなじみ“未来の王妃”に媚びを売りまくる令嬢達!)
どの世界にも必ずいた悪役令嬢の……いわゆる取り巻き令嬢達だった。
「あ、ありがとう」
私は若干引き攣りながら、笑顔を浮かべる。
ここで素直に笑顔が浮かべられないのは、あっさり心変わりした薄情な婚約者達と同様、いつもこうして私の周りにやって来る彼女達もこれまでの人生では、必ず最後には私を裏切っていたから。
『私達、命令を受けてやっただけです!』
『怖くて逆らえなかっただけなのです!』
本当に私の命令で動いて貰った時は仕方が無い事だと諦めた。
でも、私がやさぐれて悪役令嬢の役目を投げ出した後に、彼女達が好き勝手な事をしてそれが全て自分の罪にされた時は……
『……違います! 私ではありません! 私は命令なんかしていません』
『黙れ! こんなに証言者がいるんだ。言い逃れ出来ると思うな!?』
『私達、脅されて……こんな事したく無かったのに!』
『なっ! あなた達……!』
(ますますやさぐれるきっかけになったわね……)
そんないつぞやかの人生を思い出していたら、令嬢の一人がコソッと話しかけて来た。
「そう言えば、キャサリン様。聞きまして?」
「……何かしら?」
「最近、ピラスティス男爵家に引き取られた娘がいるそうなのですわ」
「!!」
思わず手からグラスが落ちそうになる。
「キャサリン様と同じ学園に編入して通っているそうですけど」
「……わ、私のクラスではないわね」
私は目を伏せながら答える。油断すると声が震えてしまいそう。
「そうなのですね? どうも聞いた所によると、とても可愛らしい容姿と人懐っこい性格で、学園では既に彼女に夢中な男性もいるとか……」
「え!」
(知らなかった……ヒロイン、そんな事になっていたの?)
こちらに絡んでは来なかったけれど、きっちりヒロインらしい展開になっていたみたい。
「まぁ! キャサリン様はご存知なかったのですね」
「そ、そうね」
私はどうにか作り笑いで返事を返す。
「実はわたくし、今日はその女の顔を見に来たのですわ」
「私もですの。ですけど、先程から探しているのですが姿が見えなくて」
他の令嬢達も同じなのか、うんうんと頷いている。
(これはあんまりよろしくない傾向……)
そんな事を思っていたら、突然、バーンという音を立てて会場の入口の扉が開いた。
何の音なのかと疑問に思った皆が、そちらに目を向けると……
「……きゃっ! す、すみません~……遅くなってしまいましたぁ」
そう言って、ペロッと舌を出しながら会場に入ってきたのはピンク色の髪を持った女性。
「パ、パーティー会場ってここであってますよねぇ?」
(……ヒロイン、リリーナ!)
今、まさに話題になっていた彼女が(とても目立つ方法で)この場にやって来た。
声は初めて聞いたけれど、やっぱり可愛ら……
(……って、ええぇ! ちょっ……)
だけど、ヒロインに視線を向けた私は、彼女の姿を見て驚いてしまい、更に言葉を失った。