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5. パーティーに向けて



「……キャサリン、大事な話がある。朝食を終えたら部屋に来い」

「お父様?」


学園がお休みの日。

朝食を終えた後、お父様に呼び出されたので部屋を訪ねてみると、お父様が真剣な顔で私を待っていた。


(な、何かしら……)


経験上、こういう時の話はろくなものでは無いのだけれど……

そんな事を考えながら、そっと部屋へと入る。


「キャサリン。今度王家主催のパーティーがあるのはお前も知っているな?」

「……知っています」

「何でも、エリック殿下からドレスを贈られたとか」

「はい」


殿下が言っていたドレスは昨日、本当に我が家に届いた。


(本当に“エリック殿下の色”だったわ)


これまでの私が断罪(ざまぁ)されたパーティーで、ヒロインがヒーロー色のドレス着ていたのは何度も見た事はあったけれど、まさか自分が着るなんて考えた事も無かったのに……

何でこんな事になっているのか。


(本当に私の為のドレスなのかしら? って気持ちの方が強いわ)


歴代のドレスは悪役令嬢らしくケバケバしい派手な物が多かったけれど、エリック殿下の贈ってくれたドレスはどちらかと言うと清楚なデザインだった。


(殿下はデザインに自分が関わっていたと言っていたけれど、エリック殿下の目には“私”がそう見えているって事?)


そう思うと嬉しい気持ちと照れくさい気持ちがごちゃ混ぜになって、どうにもムズムズしてしまう。

だってこんなの本当に“婚約者”扱いされてるみたいじゃない……


「殿下と上手くいっているようで何よりだ」


声をかけられてハッと意識を戻す。

お父様はどことなく嬉しそうな表情を浮かべながらそう口にした。


「王家に、殿下の婚約者は何が何でもキャサリンを! とゴリ押しした甲斐があったというものだ」

「……!」


(出たわ! ゴリ押し……!)


「だが、肝心の殿下にお前が嫌われては話にならんのだ!」


(そう言われても……)


「…………お父様は何が言いたいのですか?」

「決まってるだろう? キャサリン。押しの一手として殿下をパーティーで誘惑するんだ」

「ゆ、誘惑……?」

「そうだ。殿下はドレスも贈ってくれるくらいだし、一応、お前の事を気に入ってはいるのだろう。だが、油断は出来ん」


(誘惑? 悪役令嬢()が? お父様はなんて事を言い出すの!)


そんなの自ら破滅に向かって突き進むようなものなのに。


「いいか、キャサリン! 殿下の目を絶対に他の女になど向けさせてはならん!」

「……っ!」


お父様のその言葉に真っ先に浮かんだのは、ピンク色の髪の彼女。


(ヒロイン……)


「お前の事を蹴落としたいと考えている令嬢は、たくさんいるはずだ」

「……」

「そんな令嬢達に決して負けるな! そして何があっても蹴落とされる事の無いように、どんな事をしても殿下の心をしっかり繋ぎ止めておくんだ! いいな?」

「……」


(お父様……)


気持ちは分かるけれど、悪役令嬢な私に無茶は言わないで欲しい。


「話はそれだけだ」

「……失礼しました」


そうしてお父様の部屋から廊下に出た私は、自分の部屋へと戻りながら内心で憤る。


(お父様は横暴すぎるわ)


こういう強引なゴリ押しや押せ押せな態度こそが後々、殿下に煙たげられる原因となるのに!


『お前が家の力を使って私の婚約者の座に無理やり収まった事は分かっている! 卑怯な奴め!』

『強引に結ばされた政略結婚なのに俺に愛されるなんて思うな!』


と、断罪して来たかつての婚約者は一人や二人では無かったわ。

まぁ、私も調子に乗って“選ばれた私”“未来の王妃”として偉そうに振舞ったりした事もあったから余計に拗れていったわけだけれど。


「殿下を誘惑……かぁ」


何とも悪役令嬢らしい命令を受けてしまったわ。

こんなのもう、笑うしかない。


───お前は、悪役令嬢という運命からは逃れられない!


誰かにそう言われているような気がした。



◇◆◇◆◇◆



そうして、とうとうパーティーの日がやって来た。


(結局、この日まではびっくりするくらいヒロインとは何の接点も無いままだったわ)


このパーティーでは何かイベントがあるのかしら?


(何であれ、さすがにまだ断罪パーティーではないのだから、私は何のイベントが起ころうとも関わらないようにすればいい……それだけよ!)


どちらかというと問題なのはお父様の命令。

パーティーの間はきっとお父様のからの視線が痛そうなので、せめて“誘惑するフリ”くらいはするしかないかなとは思っているけれど……


(そもそも、誘惑って何をどうすればいいの?)


今までの人生は捨てられた事しかないから、何をどうすればいいのかさっぱり分からなかった。


────


「あぁ、思った通りだ、キャサリン! よく似合っているよ!」

「あ、ありがとうございます……」


色々な事を考えていたら、気づくと殿下が迎えに来てくれる時間になっていた。

少し早めにやって来た殿下は、ドレスに着替えた私を見て嬉しそうな声をあげる。

一方の私は殿下の服装を見てギョッとした。


(ほ、本当に配色が…………!)


そんな戸惑う私の視線に気付いた殿下がニコッと笑う。


「言っただろう? 僕の色を使ってキャサリンとペアにしているって」

「そ、それは聞きましたが。ですが何故、そこまでして……」


そこまでしなくても私、キャサリンがエリック殿下の婚約者である事はすでに誰もが知っている。

これ以上、周知する必要があるとは思えない。

むしろ、仲睦まじいアピールをすればするほど首が締まるのは殿下の方なのに。


「……キャサリン」

「……?」


名前を呼ばれたので顔を上げると、じっと私を見ている殿下と目が合った。

すると殿下は突然、私の頬を軽くつねった。


「んなっ!」


(何をするのよ!?)


痛くは無いけれどこんな事をされれば驚く。


「キャサリン。まずは笑って? 笑顔を見せてよ」

「!?」


殿下が再びニコッと笑いながらそんな事を言う。


(な、何故……?)


「王家と公爵家の縁組である僕達は、誰からも“政略結婚”だと思われているだろう?」

「……」


実際その通りだし、周囲にそう思われているのも知っているので私は頷く。


「だよね。だから僕はまず、それを払拭したいんだ」

「え?」


(払拭……?)


「前々から、気に入らなかったんだ。周囲に勝手に“双方に愛が無い”なんて決めつけられるのは」

「で、殿下……?」


色々とツッコミたい事はあるのに上手く言葉が出てこない。


「でも、ようやく…………機会が巡って来た。だから……」

「……?」


殿下は目を伏せながらそう口にする。


(あ、また、遠い目をしている?)


時折見せるこの顔。一体何を思い出しているのかしら?

何だかとても気になって仕方がない。


「殿下は何故、そんなにも私との仲睦まじいアピールをしたいのですか?」


(このままだと私を断罪する時に大変な事になってしまうわよ?)


そんな気持ちで私は殿下に訊ねたのだけど、

殿下は何故か曖昧な微笑みを浮かべただけで、はっきりとは答えてくれなかった。


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