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1. 繰り返す悪役令嬢



その日。

とあるパーティー会場で突然、この国の王子が婚約者の令嬢に向かって声を張り上げた。


「キャサリン・クリストフ公爵令嬢! 皆の前で今日は君に大事な話がある!」





(……っ! 来たわ。やっぱり来た……覚悟はしていたつもりだったけれど)


そんな事を思いながら、たった今、名指しされた私、キャサリンは前に進み出て顔を上げると婚約者の王子でもある彼、エリック様と目が合った。


「……」

「……」


(何よ……やっぱり、()()()も同じなんじゃない!)


華やかなパーティーの会場で、王子が婚約者の令嬢に向かって声を荒らげる。

私、キャサリンはこれまで、何回も何回も何回もそんな経験を繰り返して来た。

あまりにも繰り返しをし過ぎたせいで思うのは、この世界が()()()()()()()かは知らないけれど、結局、大筋なんてどれも同じに違いない。という事。


だから、エリック様がこの後に続ける言葉も分かっている。


───今日を持ってキャサリン・クリストフ公爵令嬢との婚約は破棄とする!


でしょう?

分かっているわ。

なのに、過去のこれまでと違って、少しショックを受けてしまっているのは……全部バクのせい。


(バカな私……)


だけど、そう期待したくなるほど、今回は……今回の人生は───……


「……っ」


どうやら、ここに来てバグはきっちり修正されてしまったみたいなのに。

私はチラッと横目でこの場にいる“ヒロイン”の彼女の事を見た。

ヒロインの彼女、リリーナはエリック様の突然のこの発言に驚いているようで、明らかに戸惑っていた。


「エリック様、こんな大勢の方々の前で私への大事な話とは何でしょうか?」

「……キャサリン。君も分かっていると思うが、僕は───」





◇◆◇◆◇◆




自分が最初に“乙女ゲーム”に転生した!

と、気付いたのは、断罪……ざまぁをされている真っ最中だった。


『ケイティ・ベリアル公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!』


婚約者でもあり、大好きだった王子が他の令嬢を腕に抱きながら、パーティーでそんな宣言をしたまさにその瞬間、私の頭の中に流れ込んできた大量の記憶。


(この世界、乙女ゲームだった!)


王子の腕の中で怯えている彼女こそがヒロインで私は悪役令嬢。

前世で何度かプレイしていたゲームの世界に転生していたなんて……!

でも、何故、記憶を取り戻すのが今なの? ……とその時、大いに心の中で嘆いた。


(ばっちり“悪役令嬢”のお役目を果たしてしまったわよ!?)


甘やかされて育ち、王子の婚約者としてチヤホヤされて育って来たその時の私、ケイティは本当に我儘で傲慢で、気に入らない奴は排除するのが当たり前だった。

『わたくしは未来の王妃ですのよ!』が口癖。

(政略結婚で結ばれただけの)婚約者の王子の事がすごく好きで、ずっと追いかけていたけれど、あまり相手にされておらず、簡単に“ヒロイン”に心変わりされてしまう。

だから、ヒロインを憎んだ。この女さえいなければ……と。


(たくさん、虐めたわ……いや、もうこれ言い逃れ出来ないレベル!)


当然、私は断罪……ざまぁされた。

そして、物語の通りに悪役令嬢ケイティは修道院に入る事になった。

さすがに処刑エンドはなくてホッとしていたのに。


(……修道院に向かう途中の馬車が事故にあって私……ケイティはそのまま……)


最期に思ったのは、

───こんな展開あったっけ? だった。




次に目覚めたら、()()乙女ゲームの世界だった。

でも、ケイティの時とは違う乙女ゲーム。


(また!?)


しかも、またしても記憶を取り戻すタイミングが悪すぎて、今度は断罪……ざまぁされる日の朝だった。

ケイティに負けず劣らずのここまでの悪役令嬢っぷりの記憶が私を絶望させる。


(せめて、前日にしてよ!! そうしたら逃亡くらい出来たかもしれなかったのに!)


そうして二度目の転生も、何の抵抗も出来ないまま悪役令嬢としての人生を終える事になった。


───そして、次に目覚めると……また違う乙女ゲームの世界の悪役令嬢だった。




こうして、気付くと私は色々な乙女ゲームを渡り歩く“ベテラン悪役令嬢”となっていた。


最初はプレイした事のある乙女ゲームの世界ばかりだった。

そのうちプレイした事の無い知らない乙女ゲーム(と思われる)世界になっていったけれど、その頃にはもう自分は誰であれ“悪役令嬢”として、生きる運命なのだと悟っていた。


(しかし……世の中、乙女ゲーム多すぎないかしら?)


記憶を取り戻すようになってから、最初こそヒロインに申し訳ないと思いながらも、シナリオに従って嫌がらせをしていた時もある。

だけど、何度目かの悪役令嬢人生で気付いた。


(私が何もしなくても勝手に話が進んでない?)


強制力か何か知らないけれど、悪役令嬢の私が直接手を下さなかった場合は他の誰か(主に悪役令嬢の取り巻き)が代わりに役目をこなし、悪役令嬢の私に罪を擦り付ける。

冤罪でも何でもとにかくラストは“悪役令嬢”をざまぁするというシナリオになるらしい。

逃げようと試みた事もあったけれど、すぐに正規ルートに戻され成功する事は一度も無かった。


そんな事を繰り返し続けていれば、当然心はやさぐれる。

私は、やさぐれた。

正直、もううんざりだった。


悪役令嬢? 婚約破棄? ざまぁ?

どれも似たような話ばかりだし、全部に飽きてきていた。

最近は婚約者の顔すらおぼろげに……


相当、鬱憤が溜まっていたらしい。

だから今回、このキャサリン・クリストフ公爵令嬢に転生する一つ前の悪役令嬢人生の最期。

私はヤケになって叫んでいた。


「悪役令嬢? 婚約破棄? ざまぁ? もう、どれもうんざりよ!」


と。


まさか、この一言のせいで次の悪役令嬢人生が大きくバグる事になるなんて夢にも思わずに。


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― 新着の感想 ―
[一言] 悪役令嬢転生モノが好きすぎて、なんでこんなに同じなのに毎回楽しいんだろう、という境地に至っているところだったので、新鮮な展開を期待させる第一話にとってもワクワクが募りました!
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