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敗北

 村はずれの森の近く、辺りは草しか生えていない荒野、新右衛門と鬼道丸は向かい合い会話を始める。


「若いの、どこから来た? 刀は誰から習った?」

「日本という国から来た。剣の師は鐘巻自斎かねまきじさい


 鬼道丸が鐘巻自斎の名を聞いた時に少し表情に動きがあったように見えたが、鬼道丸は新右衛門に質問を続ける。


「お前の母親の名はなんという?」

「俺の母親? 知らぬ、師からはヤマユリのような人だったとしか聞いていない」

「ヤマユリか……。そうか……」


 鬼道丸はヤマユリという言葉に明らかに反応したかに見えた。


「おい、そんな話をするためにここまで連れてきたのか?」

「いや、余計なことを聞いてすまなかった。ただ、お前の腕前で姫様を守れるのか疑問に思ってな」


 鬼道丸は手に持っていた袋から2本の木刀を取り出し、一本を新右衛門に投げ渡す。


「なんだ、腕試しか?」

 

 新右衛門は鬼道丸の強さがわかるだけに剣士としての血が騒ぐ。


「そういうことだ。俺は手加減してやるが、お前は本気でよいぞ!」


(舐めるな! このジジイ!)


 新右衛門が纏う空気が一気に殺気に包まれる。


「やはりな! お前はその程度か」


 鬼道丸は木刀を右手で握ると、構えることもなく無防備な状態で新右衛門を誘う。


「死んでも事故ってことでよいか?」

「若いの、御託はいいからさっさと来い!」


 新右衛門は鬼道丸の挑発に乗り、一気に斬りかかる。


 新右衛門の剣の勢いは凄まじく、風を切る音が辺りに響き渡るが、鬼道丸はまるで子供をあやすかのようにしなやかな剣さばきで新右衛門の剣をいなす。


(なぜだ? なぜ当たらない……)


 新右衛門は全力で振っている剣が一発も当たらないことに焦り始める。


「どうした? 一発も当たらないが……。今度は俺の方からいくぞ」


 鬼道丸は守りから一転して攻めにまわると、まるで目の前から複数の剣が伸びてくるような素早い突きで新右衛門はかわすこともできずに、尻もちをつく。


「今のお前では、姫様を守ることはできん。元の世界に帰れる手段を教えてやるからさっさと帰って二度とこの世界に足を踏み入れるな!」


 この言葉に完全に我を失った新右衛門は立ち上がり、鬼道丸に再び剣を構える。


「理解力が低いのか?」


 鬼道丸は呆れてため息をつくが、我を失った新右衛門から先ほどまでの剣さばきより更に鋭さを増した剣が鬼道丸の頬をかすめる。


(なんだ、こいつ、先ほどより剣にキレがある……)


 油断をすると逆にやられると察した鬼道丸も咄嗟に本気を出し、新右衛門を滅多打ちにした。


「まだだ……。逃げるな……」


 満身創痍の新右衛門はそれでも立ち上がり、鬼道丸に挑もうとする。


 鬼道丸は満身創痍の新右衛門が剣への集中力を増していくのを感じ、先ほどまでの無防備な状態ではなく、新右衛門に向かって剣を構える。


(その構え、父上の構えによく似ている)

 

 新右衛門は鬼道丸の構えを見て師である鐘巻自斎の姿を思い出し、そしてそのまま倒れた。


「自斎様はよくここまで鍛え上げてくれた……」


 鬼道丸は気を失い、動かなくなった新右衛門の前でボソッと呟く。


 二人の異様な雰囲気を察して後を追いかけてきた椿が倒れている新右衛門に駆け寄る。


「鬼道丸、なんでこんな酷いことをするの?」


 椿は気を失った新右衛門を抱きながら、鬼道丸を睨みつける。


「この男がうちの姫様を守れる技量か確かめたかったのです」

「でも、こんなやり方しなくても!」


 椿は鬼道丸に対して語気を強める。


「今は椿様でよろしかったかな。その新右衛門という男を《《先生》》の元に連れて行くとよい。先生には私から連絡を入れておく」


 そう言うと、鬼道丸は村へと戻って行った。


 気を失い動けなくなった新右衛門の片腕を肩にかけ、椿は鬼道丸が言う、先生の家に連れて行くのであった……。

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