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和解

 翌朝、宿屋の食堂に重たい空気が張り詰める……。


 新右衛門と椿は食堂で向き合うが、なかなかどちらも話し出さない。


 新右衛門は椿から目を逸らし、椿もずっと下を向いている。


「椿、お前も妖力のために人を喰うのか?」

 

 重たい空気の中、新右衛門が口を開く。


「昔はそうだったけど……、今は食べないわ……」


 椿は下を向いたまま答える。


「なぜ今は食べない?」

「それは……、今は話したくない。でも信じて欲しい……」

「話せないのに、信じろというのか……?」


 新右衛門が問い詰めると椿は黙り込み、再び沈黙となる。


 二人の重たい雰囲気を見かねた宿屋の女将さんが新右衛門に詰め寄る。


「お兄ちゃん! あんたに助けてもらったことは感謝するけど、自分が守ると決めた女の言うことを疑って問い詰めるなんて最低だよ! いいじゃないかい! 今は話したくないって言ってるんだから!」


「しかし、女将さん、あんたも鬼に食べられそうになっただろ」


「この子は誰も食べてないだろ!」


 女将さんがテーブルをドンと叩くと、新右衛門も女将さんの気迫に押され黙り込む。


「男が守ってやると決めたら、理由はどうあれ、その女を信じてやりな! あと、話すときは相手の顔くらい見てやりなよ」

 

 女将さんは少し優しい口調になり新右衛門に椿を見るように促す。


 新右衛門はずっと目を逸らしていて気づかなかったが、椿を見ると一晩中泣いていて一睡もしていなかったのがわかるように目の下は晴れていて、少しクマができて表情もやつれていた。


「女にこんな顔させちゃダメだろ! 私を襲ったのはこの子じゃないんだ。あんた、この子の言うことよりも、あの銀髪の人喰い鬼の言うことを信じるのかい?」


 女将に言われて、新右衛門は自分の過ちに気づいた。


「椿、疑って悪かった……。また昨日までのように接してくれるか?」


「……うん」


 椿は小さな声で頷いた。


「もう、まったくダメだわ! 見ててイライラする! この国の仲直りの方法を教えてあげる。二人ともここに立って向き合って!」


 女将さんは新右衛門と椿を向き合わせると、両サイドから背中を押して強引にハグをさせた。


 椿は新右衛門の胸元に顔を押し付けられ、顔を赤らめ、新右衛門も恥ずかしさのため顔を上へ背けた。


「よし! これで仲直り終了だ! この話は終わり! いいね!」


 女将さんの強引な仲裁で二人の間の緊張感も和らいだ。


「それよりお兄ちゃん、そのポニーテールとスカートみたいな服は目立つわ! 今から床屋に行って髪を切ってきな、服はうちの亭主の貸してあげるから!」


 新右衛門は『郷に入っては郷に従え』という言葉を思い出し、シャツとズボンに着替え、女将さんに聞いた床屋に散髪に向かった。


「お前もお節介だな! あのお兄ちゃんが《《アイツ》》みたいに見えたか?」

 

 宿屋の主人が女将さんの肩に手を回し、話しかける。


「そうね、なんかあの子を叱っているような感覚になったわ……」


 宿屋の夫婦には息子がいたが、騎士団に入隊し、鬼との戦闘で命を落としていた。


 床屋に向かう新右衛門を見送りながら宿屋の夫婦は顔を見合わせて微笑み合うのであった。

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